Only Roaster(オンリーロースター)

勝ちたいという気持ちが結果に結びつく──JHDC2018覇者 深浦哲也

2020.03.17
深浦哲也

カリフォルニア発のコーヒーロースターVERVE COFFEE ROASTERSで勤務され、ドリップセミナーなどの講師としても活躍している深浦哲也さんは、ハンドドリップの技術を競うジャパンハンドドリップチャンピオンシップ(JHDC)2018のチャンピオンでもある。

JHDCはハンドドリップに特化した競技会として認知されている。決勝大会では、ブラインド審査のドリップ競技と、プレゼンテーションを伴うフリー競技とで争われる。今では全国で行われる予選会は申込日と共にすぐ埋まってしまうほどの人気の競技だ。

そんなJHDCに、3度目の出場で栄冠を得た深浦さんの、優勝までのストーリーと対策を教えていただいた。

初出場は何もできずに予選敗退

カフェシュクレに入ったきっかけが、様々なご縁と、2015年にJHDCチャンピオンになった高橋由佳さんが在籍していたこと。チャンピオンを輩出しているお店で働きたいと思いで入社しました。

なぜ大会に出場したかというと、具体的に目標を定めて、自分に負荷をかけた方が早くレベルアップできると思い、大会に出ようと思いました。

初出場の2016年大会は、入社後すぐに申し込みがあり、何も分からないままでしたが、今の自分の実力を知るために応募しました。結果は1回戦敗退で何にもできずに終わりましたが、経験としては次に繋がったと思います。

2回目となる2017年大会の目標は、去年の自分を上回る為にも最低1回戦突破。お店の業務を覚えるのも精いっぱいの中、店長になりバタバタしてるうちに大会が迫ってきて。練習はしていたんですけど、当時はお店の淹れ方の延長線でやってました。スタイルとしてはお店のレシピ。

結果1回戦は突破できましたが2回戦で負けました。ただ2016年大会に出場したときより内容的には満足できました。1回目の時は準備してきたレシピをただやるだけだったんですけど、2回目はある程度レシピを調整しながら考えてできたので、現時点での力は出しきれたと思います。しかし、まだまだ明らかに力不足な事を痛感すると共に、勝つ為にもっと長いスパンで、具体的に練習に落とし込まないとダメだと感じました。負けてからすぐに、来年勝つためにどうしたら良いか考え行動に移しました。

深浦哲也
深浦哲也(ふかうら てつや) VERVE COFFEE ROASTERS。1988年東京生まれ。カフェ・レストラン勤務等を経て2016年Un Cafe Sucre株式会社入社。2018年にハンドドリップに特化した競技会「ジャパンハンドドリップチャンピオンシップ(JHDC)」で優勝。現在は、VERVE COFFEE ROASTERS北鎌倉店のマネージャー業務に加え、焙煎やレシピ考案などを担当。

1日15分を1年やっていけばいろいろな引き出しができる。

レシピを突き詰めてやったんですけど、今の淹れ方に限界を感じてきました。勝つためにどうしようかと思った時に、まずは勝つための味を知ることが大事だと思いました。その年から他の競技者のコーヒーが飲めるルールになったので、勝ち進んだ競技者のコーヒーの味の特徴、方向性を忘れないようにしました。いろんな人のセミナーにも参加しました。

あと、2回目のときは大会前に居残りしたりして集中的にやっていたのですが、コーヒーってあまり量を飲めないですし、味覚も鈍ってきます。営業後の居残り練習も、疲れて効率が良くありません。ですので、居残り練習はせず、1日の休憩時間1時間の中の15分を使って検証し、それを1年毎日やっていけば無理なく、調整の引き出しができるんじゃないかなと考えました。15分というのも大会の実際のリハーサル時間が15分なので、時間も意識しながら取り組みました。

なんとなくやってたら忘れるので、記録に残さないともったいない。でも文章だと毎回書くのがめんどくさいですし、後から読む気もしない。なので表にして、スコアシートに合わせて味わい・甘味・酸味・後味・質感みたいな項目を作り、マルバツサンカクで簡易的に毎回自分で評価するようにしました。決勝に勝ち進んだ競技者の動画を見て、統計もとりました。どんなドリッパーを使って、どういう粒度で、どんな淹れ方をしている人が勝っているのかとか。そして、珈琲を淹れるすべての動作やレシピに意味を持たせ、なぜそうするのか、一つ一つ自分の言葉で説明できるまでに検証しました。また、調整する時間を身体に染み込ませるためにも毎日15分測って、時間内で検証するようにしました。基本的には朝早くとか夜残って練習はしない。休憩時間の15分やるだけ。

負担もなく、でも着実に一歩一歩引き出しが増えていく。それを1年通してやりました。

日頃の業務での悔しい気持ちが一番のモチベーションでした

3回目の目標は、決勝に進んで優勝することでした。前任者が優勝した高橋さんだったので、自分が店長になった時に、コーヒーが美味しくなくなったって結構言われたんです。悔しくて悔しくて、これを見返せるものは誰もが認める結果を出すしかないなと。いつか見返してやると、地道に練習しました。正直誰も自分が決勝までいって優勝するとは思ってなかったと思います。しかし、唯一、妻だけは地道に練習してきた自分の姿を一番近くで見てくれていたので、最初から優勝できるよと信じて応援してくれました。妻には本当に感謝しています。

本当に悔しい時って一時的ではなく、ずっと悔しくて夜も眠れないんです。ずっと悔しくて、抽出の事を誰よりも考えて悩んで。美味しいコーヒーを淹れたいとか勝ちたいとか、その気持ちも大切ですが、見返したいとか悔しいって気持ちの方が人って頑張れるのかなって気がしてます。大好きなコーヒーだからこそ、悔しさを活力にできたのかなと思います。

深浦哲也

味だけでなく、勝つためにはどうしたらいいのか

コーヒーの淹れ方の所作も気にしました。この人美味しそうに淹れるなとか、かっこ悪いなとか。淹れ方がかっこいい方が美味しそうですし、飲み手の期待値も上がります。お店でも淹れてるところを見られてるので、そこは大事だなと。

かっこいい淹れ方をしている人を真似たりもしました。その時、粕谷さん※1とか畠山さん※2の淹れ方を見てると半身だったんです。実際に試してみたら、とてもやりやすかったんです。右にケトル持つと右に重さがあるので、仁王立ちするよりもバランスが取れたんです。見た目もかっこいいし、日頃の営業中にも意識するようにしました。

オペレーションもできるだけ効率がよい方法を考えました。シンプルな道具、配置、オペレーションを見直して戦っていこうと。味だけでない。勝つためにはどうしたらいいのか、それもちょっとずつ見えてきたんです。やっぱりまずは減点しないことだなと。減点で進めない競技者が結構いて、せっかく美味しいコーヒー淹れてももったいないですよね。それって日頃の営業とリンクしてるなと思いました。オペレーションがいいってことは早くスムーズに提供できることですし、むしろ大会で得た刺激や力を、日頃の営業に生かしてこそ大会に出る意味があるのかなぁと思います。

※1 粕谷哲(PHILOCOFFEA Roastery & Laboratory) 2015年JBrCチャンピオン、World Brewers Cup 2016にてアジア人初の世界制覇を達成。
※2 畠山大輝(Bespoke Coffee Roasters) 2019年JHDC、JBrCで競技会史上初の2冠を達成
深浦哲也

勝ちたいという気持ちが結果に結びつく

決勝行ってからわかったのは、当たり前ですが改めて勝ちたい気持ちが強い人が勝つんだなと感じました。勝ちたいと思ってやってる競技者と、そうでない人のプレゼンテーションには明らかに差があります。勝つ人は無駄な減点はしませんし、勝つためにかなり細かい部分まで気を配って準備します。負ける人はだいたいツメが甘いです。

去年、会場でインタビュアをしたのですが、客観的に見てるとよりそれを感じました。せっかく美味しいコーヒーを淹れても、プレゼンがダメだと負けます。プレゼンでいかに分かりやすく、かつ勝ちたいという熱いパッションを感じると、審査員も人なので加点したくなるんですよね。営業でも目の前のお客様にこの珈琲の魅力をどう伝えるのか、プレゼンも接客も同じだなぁと感じます。

今までの歴代のチャンピオンに「どうやったら勝てますか?」って、漠然とした質問を投げたことがあるんです。そしたら審査員からいかにこの人のコーヒーを飲みたいと思わせるか、「その人をチャンピオンにしたいって思わせられるかだよ」と言われて。辿々しくても熱気が伝わってきたらプラスに働くんじゃないかなと。

将来は独立するということが最大の目標なので、そのための大会出場でもあります。全ては目の前のお客様の為です。大会挑戦を通して技術だけでなく、どうやったらお客様に喜んで頂けるか、そこを見つめ直すとても良い機会なので、是非たくさんの方に参加してもらいたいと思います。

Photos & Interview & Text & Editor: 疋田 正志
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