語り手: 店主/井尻 健一郎
「深煎りの、その先へ。」静かに魅了する珈琲の世界
大正駅からすぐ、路地裏にひっそりと佇む〈井尻珈琲焙煎所〉。ここには、メニューの説明もなければ、豆の産地や精製方法の細かい情報もない。ただあるのは、「コーヒーと日常と余白を楽しんでほしい」という、シンプルな言葉。そのメッセージの通り、店内には穏やかな時間が流れ、訪れる人々が思い思いのひとときを過ごしている。提供されるのは、月ごとに変わるたった一種類のブレンド。深煎りでありながら、重たさに頼らない爽やかさと、じんわりと広がる甘みが特徴だ。その一杯に惹かれ、年齢も職業も異なる常連たちが静かに集う。
店主・井尻健一郎さんは、手網焙煎から独学で焙煎技術を磨いてきた。「焙煎って、掴んだと思ったらまた離れていく。その繰り返しですね。きっと、一生答えなんて見つからない。毎日飽きないですね」。そう語る姿勢は、ひたすらにコーヒーと向き合う職人そのもの。深煎りを極めることで、たどり着いた独自のバランス。井尻珈琲焙煎所の一杯は、ただのコーヒーではなく、日常に心地よい余白を生み出すものなのかもしれない。
- Tags