コーヒーでコロンビアの環境や社会に還元していく──DA VIDA プロジェクト
今回、話を伺ったDA VIDA JAPANのリージョナルマネージャー・石丸雄一さんは、1年間コロンビアのエル・ディアマンテ農園で、コーヒーの育つ環境に関わる全ての工程を学んだ経歴を持つ。
そこで、「これから働いていく中で自分はどのような行動をしていったらよいのか、本当に必要な事をコロンビアの農園や人々自然環境に還元していきたい」という思いが強くなったという。
環境や社会的なことに還元していく
DA VIDAについてご紹介お願いします。
DA VIDAは、スペイン語で「人生を与える」という意味があります。
メインプロジェクトは、コロンビアの小規模な生産者さんと日本のスモールロースターさんとを繋げること、ダイレクトトレードを通して環境や社会的なことに還元していくことです。
ビジネスとしては、輸出輸入がメインですか?
はい、それをベースとして、利益の一部だったり、プロジェクトとしてコロンビアに還元していくという感じです。
コーヒーそのもの自体も大切ですが、そこに携わってる人達や、コロンビア人同士のコミュニティ、今後コーヒーの農業に携わっていくであろう子供達、それを取り巻く環境はコーヒーを持続的に栽培していく上でとても大切なことです。
家族のコーヒーを広めるため、日本に輸出したかった
自社農園があるのですか?
はい、農園を持ってますし、買い付けも行います。
有名どころだとエル・パライソ、ミカバ、ミラン。そこに加え、小規模生産者さんや現地のプロジェクトの生産者など、彼らと1対1で対話して、こういうコーヒー探してるなど話し合い、オファーサンプルをもらって、買い付けと輸出と輸入を全て行ってます。
自社農園はコロンビアのどのエリアにあるのですか?
DA VIDAの農園は、キンディオ県というコロンビアの真ん中あたりにあるコーヒーの産地として有名な場所にあります。
代表のダビ(David Bedoya)が、Bedoya家という生産者の家系にあるので、彼と彼のご両親の農園エル・ディアマンテや、彼のいとこやおじさん、近くにいる友達の農園だったり、仲いい農園さんのコーヒーを日本に広めてきたいっていうところから、DA VIDA プロジェクトが始まりました。
親戚や知り合いの農園の豆も扱われてるのですね。
コーヒー豆の品質には安心できますね。
そうですね!
東京都内の大学でもフェアトレードやダイレクトトレードについての講義をしているのですが、大学生やプロジェクトに興味を持ってくれた若者が来てくれた時も、農園に住み込みで一緒に作業しました。
苗床に種を植えて、育ったものをまた穴を掘って農園に植えて、大きくなってチェリーを収穫するという、コーヒーの全てを体験することができる場所にもなっています。
基本的にコーヒー栽培は草刈りとか木の手入れとか、体を使う仕事(農作業)です。収穫体験や精製所の見学といったただ雰囲気を感じて体験するだけではない、農園の手入れ、体力仕事といった部分からリアルな部分を体験できるようになってます。
ギャラリーの展示会からスタート
いいですね!一緒に参加したかった(笑)
そもそもなぜ日本に拠点を置かれたんですか?
代表の酒井とダビがスペインで会ったことからです。
ダビのお父さんが首都ボゴタにギャラリーを持っていてアートに精通していたこと、酒井が美大出身でバルセロナに留学に行っていたことから出会い、意気投合しました。
その後、「DA VIDA プロジェクト」として都内のギャラリーで展示会を行い、10枚のコーヒーの麻袋にコロンビアのアーティストJoaquin V.D.Jがペイントしたものを展示したんです。 それがDA VIDA プロジェクトの始まりです。
ここから、コーヒーの生産者さんが関わったり、コーヒーが自分たちの中で身近で、なおかつコーヒーを通して何かしらの形でそこに携わる人々や環境、課題にプロジェクトとして還元していきたいよねっていう考えから、買い付けや輸出、輸入、全てを一貫して行なっていこうという流れになったんです。
DA VIDA プロジェクトは、コーヒーよりもアートが先だったわけですね!
そうそう、そっちが最初です!
それこそ家族のコーヒーを広めるため、日本に輸出することがやりたくて。ダビ自身も、元々国際経営学みたいなのを大学で専攻してて、日本の市場に興味があり、しかも、スペインで出会った酒井が日本人で輸入とかの手続きもできるということで、じゃあ日本で最初に展開しようっていうことになりました。
画が書かれた麻袋は販売されてたんですよね?
はい、全て売れました!
全ての売り上げは、文房具や本をクリスマスプレゼントとして現地の子供たちにあげたり、農園に樹々を植えたりというプロジェクトの資金として使用しました。
それはコーヒーの輸出輸入をやる前の段階のものなんですね。
そうです。輸出輸入というビジネスモデルをちゃんと作りたいので、コーヒーに焦点をあててるんですけど、メインの目的としては、DA VIDAのコーヒーを通して、コミュニティを作り、そこから生産者とロースターが繋がり、社会や環境的な部分に還元していきたいよねっていうところがあります。
だからDA VIDA プロジェクトなんですね。
プロジェクトと付いているので、どういうことなのかなと思ったんですけど、そういうことか。
あくまで商社とはまた違う位置付けとして、私たちは動きたいというのがあります。
豆を買い付けて、輸出して輸入して、それだけでもダイレクトトレードとしては成り立つとは思うんですけど、ただの商社というよりも、1プロジェクトとしての意識で動くことで生産者さんやロースターさん全てを巻き込んでいきたい、そこがダビの拘り・想いではあります。絶対に商社みたいな、会社としてというよりも、プロジェクトとして動きたいと。
プロジェクトとしての認知は、あまりされてないですかね?
そうですね。まだまだプロジェクトとしては認知されてないと思います。大体のロースターさんは、生豆を購入するとき、それこそ「メロンのやつ美味しかったからこれ欲しい」みたいな感じの入り方じゃないですか。味わいの個性だったりクオリティが、どうしても大切なので。
最初はそれでいいと思うんですよ。クオリティや取り扱っている豆からDA VIDAを認知してもらい、実は自分たちはこういうプロジェクトしてますっていう方が割と浸透もしやすいですし、そこに共感してくれれば、実際にコロンビアに来た時にも、カッピングをただするだけではない社会的・環境的な部分も含めて見てくれる。
まずはコーヒー豆を買ってもらって、そこからプロジェクトを知ってもらう、それなら自然と広まっていきますね。
先日もSUDUSというキンディオ県を中心に活動するプロジェクトの生産者さんとコラボレーションしていました。
フラワーコリドーといって、植物学者やガーデニングデザインを得意としてる方々が、コーヒーの農家さんのところでお花畑みたいなものを作ったり、植樹をしています。
受粉という環境を作ることによって、コーヒーを取り巻く環境がどんどん良くなっていき、土壌も良くなっていくから、本当に持続可能なコーヒーの栽培に貢献できます。
コロンビアも昔は自然豊かでしたが、化学肥料などが使われ始めて土壌が弱くなったり、木も固有種じゃなくて病気に強いものが増えてきて、固有種がどんどん減ってきてる問題があって。
自分たちはこのままでいいのか、といった課題意識から、花を植えて受粉できる環境を作り、コロンビアの固有種、品種、昔から育てられてる木を植樹してあげて、コーヒーの栽培にもそうだし、地球にも還元していくプロジェクトになっています。
彼らが、環境整備をした農園のサプライヤーとしても現地で動いていて輸出もしてるんですけど、そこの農園にダビが行ってきて、カップを取って。 クオリティも良かったし、プロジェクトとしても素敵だから、自分たちで日本に広めようということになりました。
オファーサンプルの段階なんですけどロースターさんに渡して、評価してもらい、もし気に入ったものがあれば予約っていう形で現地に注文するような流れになっています。
コーヒーとは関係のない業界でも、そのプロジェクトを動かせますね。
環境系のプロジェクトだと、コンポストの作り方や肥料の作り方。
自分たちの農園が実験体じゃないですけど、実際にミミズのコンポストを実施したり、牛の糞や藁など自然物を混ぜ合わせ、半年くらい放置して腐葉土化させるような試みもおこなっています。
実際にそこで得た経験や肥料などをチーム内で共有したり、近隣の農園に配布したりといった取り組みも行います。
他には養蜂も自分たちの農園でやっています。ミツバチが生きやすく、植物たちが受粉しやすい環境を作っています。
プロセスの多様化
コロンビアの豆と他の生産国の豆って、特徴的な違いはありますか?
特徴的な違いとしては、フルーティな酸味があって、なおかつボディもしっかりあるっていうところですね。
ただコロンビアの中でもエリアごとに味わいはすべて違うし、品種やエリアが一緒でも生産者ごとに違うというのは面白いですね。例えば、南部のウィラとカウカでも違うし、北の方のシエラネバダになるとまた全然テロワールが変わるし。
ですが、何よりコロンビアの今の面白さっていう部分だと、やはりプロセスの多様化っていうところですね。
やはりプロセスの多様化というところは、コロンビアのトレンドですか。
トレンドですね。生産者自身が自分達で研究してやってます。
首都ボゴタやメデジン、カリといった大都市圏にバイオ研究所みたいなところがあって、そこで発酵の研究や生産者向けの定期的な発酵・精製の講座を行っています。発酵のそもそもの原理、イーストの種類、どう持続的に行うかっていうセミナーが行われています。
発酵系が広がったわけ
発酵は誰が考えてやってるんですか?それぞれの農園がやるんですか?
生産者が自分たちで考えてます。
最近話題のメロンフレーバーのコーヒーの生産者は、アンドレス・キセノ(Andres Quiceno)というんですけど、そのオーナーのフリオ・マドリッド(Julio Madrid)の娘さんが大学で発酵の研究をしてたんです。最初はカルチャリングといって、ヨーグルトに使われてるような発酵の方法をコーヒーに応用できるんじゃないかって娘さんが提案して、そこから始まったプロセスの研究なんです。
実際やってみたらなんか面白いぞってなって、それをどんどん突き詰めていったら、フルーツとかを使わなくてもイーストの種類や強さ、発酵を行う環境・時間によって、味わい作りが結構コントロールできるなって。
カルチャリングは、タンクを2つ用意して、片方のタンクにベースとなるフルーツとかイーストを入れてそこで発酵させ、バクテリアを強化させたり変化させたりして培養液・培地を作ってあげるんですよ。その後、パーチメントが発酵してるタンクの方に移してあげて、バクテリアの力を使って、さらに発酵させてあげます。そうすると面白いフレーバーが出来上がります。
生産者も専門的な知識が必要ってことなんですね。
そうですね、自分たちで考えてすごく勉強してます。
それこそタンクの種類も多様です。村とかで売ってる市販のプラスチックや研究用のガラスのもあるし、ワインとかクラフトビールみたいな感じのステンレスタンクのものもあります。
温度をコントロールできる他、プロセス中に下に溜まったミューシレージを常に循環させてあげるという機能のついたタンクなんかもあります。
Nitroっていうと、窒素ガスを使って、専用のサーバーから抽出するナイトロコーヒーを思い浮かべますが。
生産者のフリオ・マドリッドとアンドレス・キセノが、自分達が持ってるイーストを、ボゴタの研究所に送って解析してもらったそうです。
イーストによって酸素が多い場所で発酵が活性化するのか、より生きていくことができるのか、二酸化炭素の方がイーストに適してるのか、いろいろあると思うのですが、彼らの持ってるイーストがマッチする環境が窒素の環境だったんそうです。そういういうところから、じゃあ実際に窒素という環境で発酵を行ってみたそうです。
オーソドックスなウォッシュドやナチュラルは少ないのですか?
結構ありますよ。コロンビアのベースはウォッシュドです。ただ、トレンドとしてはアナエロビックとかカルチャリングが増えてきてますけど、個人的には普通のウォッシュドが好きです!
産地の特徴が際立つウォッシュドはいいですね。コロンビアだと酸が特徴的なイメージです。
ベースは生産者の腕と栽培環境、そこから生まれるテロワールだと思います。コロンビアはそこの部分において恵まれた国だと思います。
例えばある生産者のゲイシャを飲んで、それがめちゃくちゃ美味しかったら、カツーラやカスティージョといったトラディショナルな品種のウォッシュドも間違いなく美味しいです!
コロンビアでここまで発酵系が広がっていったのは、なぜだと思いますか?
都市部的にやりやすいというのもあるんじゃないですか。それこそコロンビアは、南米の中では結構発展してる国なので。
コロンビアは南米でも発展してる国だったんですね!位置的には日本のほぼ裏側にあたるんですよね。
首都ボゴタは東京みたいな感じです。メトロとかは通ってないですけど都会で綺麗、観光地も多く、発展しています。
自社農園のあるキンディオ県も海外からの観光客が多く、情報も入ってきやすい環境にある他、FNCの研究機関であるCenicafeが品種改良もやってるので、そういうのもあってだと思います。
なぜ長久手市のガーデン&カフェに倉庫があるのですか?
愛知の長久手市にあるガーデン&カフェARCHI・PEL・AGO(アルキペラゴ)という、ランチやドルチェも楽しめる庭園あるんですけど、うちの代表酒井のお母さんがオーナーなんです。その一角にコンテナがあったからそこを借りています。
ダイレクトトレードを浸透させる
今後のDA VIDA プロジェクトの目指すことは?
今後はロースターさんやプロデューサーそれぞれに焦点を置いて、もっとダイレクトトレードが浸透していけばいいと思います。
自分たちが存在しなくてもいいような感じ。最終的な部分は、生産者とロースターさんがお互いに話をしてプライス決めて、あくまで自分たちはロジスティック、輸出輸入とかっていうのだけをサポートしてあげるみたいな部分が最終的に目指すところです。
コーヒーに携わる人々がつながり合うプラットホームとしてDA VIDAが機能し、その名の通り「人生を与える」ような何かのきっかけになるようなプロジェクトになればと。
それは意外な答えですね!
自分たちの農園がありますし、関係性も各農園とも取れてきたので、日本のロースターさんを連れて行って、現地で買い付けてもらったり、コーヒーの生産現場を見てもらって、なおかつコーヒーだけじゃなくて、それ以上の環境だったり社会的な部分にも目を向けてもらって、よりコーヒーのことを知ってもらえたらいいですね。
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