Only Roaster(オンリーロースター)

職人技とテクノロジーが融合した焙煎機の革新──オランダの名機 GIESEN(ギーセン)

2024.10.25
GIESEN W6A

オランダ発の焙煎機メーカーGIESEN(ギーゼン)は、世界中のロースターから高い評価を受けている。2006年の創業以来、科学的アプローチと最先端の技術を駆使し、精密な焙煎を実現するマシンを提供してきた。その革新的な姿勢と、蓄熱や熱交換技術へのこだわりが、プロフェッショナルたちの信頼を集めている。

特に、GIESENの焙煎機は1.5kgから140kgまでの幅広いラインナップを誇り、規模を問わず多様なニーズに応えられることが特徴だ。日本市場においても、メンテナンス体制の強化や九州エリアへの展開を進めており、ロースターたちの成長をサポートする姿勢を打ち出している。

今回は、GIESEN JAPAN代表の福澤由佑さんに、GIESENの技術的な強みや日本市場での展望について詳しく伺った。1ST CRACK COFFEE CHALLENGEを通じた若手支援の取り組みや、マイクロロースターを含む多様なロースターたちとの協業に込められた思いにも注目したい。

精密焙煎を実現する魅力

編集部

GIESENについて、具体的な背景や特徴について詳しく教えていただけますか?

GIESEN JAPAN

2006年にオランダで誕生した焙煎機メーカーで、最先端のテクノロジーを活用した精密な焙煎が可能です。

科学的アプローチをいち早く取り入れたところが魅力の、業界をリードするマシンです。

福澤 由佑
福澤 由佑 (ふくざわ ゆうすけ)。GIESEN JAPAN代表。広告代理店やマーケティング会社からキャリアをスタートし、米ロサンゼルスでコーヒーの魅力に取り憑かれる。日本帰国後に友人から引き取った5坪のコーヒースタンドから独学で自家焙煎を始める。モノづくりへの興味もあり、中古焙煎機のメンテナンス事業をきっかけにGIESENの日本総代理店となり現在に至る。
編集部

GIESENの焙煎機は、世界市場でどれくらいのシェアを持っているのですか?

GIESEN JAPAN

GIESENの焙煎機は、全世界で約6000台から7000台も稼働していて、世界中の多くのロースターに愛用されています。これだけ多くのプロフェッショナルたちに選ばれているということは、それだけ信頼され、実力が証明されているということだと思います!

蓄熱と熱交換を極める焙煎技術

編集部

技術的な強みや性能についてもお聞かせいただけますか?

GIESEN JAPAN

鉄素材には非常に強いこだわりがあります。焙煎中に熱をしっかり保持し、効率的に伝えるための工夫が凝らされています。

単に熱を逃がさないだけでなく、計算された熱量をしっかり蓄えることが求められるため、その点も考慮して素材選びを徹底しています。

本体はヨーロッパ製、ドラム内部のスポークや芯部分には鋳物を使用することで、高い精度の焙煎を実現しています。

編集部

蓄熱というのは焙煎において非常に重要な要素なんですね。蓄熱があることで、風味や仕上がりにも大きな影響を与えるのでしょうか?

GIESEN JAPAN

蓄熱は単純に断熱材や鋳物で囲めば良いというものではなくて、それだけでは熱交換効率があまり良くないんです。

重要なのは入ってくる熱と出ていく熱のバランスで、蓄熱しすぎるドラムは対流熱より伝導熱過多になりますし、火力によるコントロールも難しいのが事実です。よく「鋳物ドラムが良い」と言われますが、具体的にどの部分を指しているのかが問題で、外周なのか、スポーク部分なのか。

GIESENでは芯の部分にこだわり、焙煎中に最も火が届きにくい内側にしっかり蓄熱できる素材を使っています。外側はダブルドラム構造で最低限の断熱を保ちつつ、熱交換効率を最大限に考慮しています。見た目はシンプルな鉄の塊に見えますが、その内部には科学的に計算されたアプローチが詰め込まれています。

GIESEN W6A
GIESENのフラッグシップ焙煎機、W6A

フィードバックを活かした技術的進化

編集部

蓄熱と熱交換のバランスにこだわったGIESENの設計は、焙煎の精度を追求するための科学的アプローチがしっかり反映されている印象的を持ちました。

年式ごとに形状に若干の違いが見られますが、毎年新しい技術や改良が加えられ、モデル自体も進化しているのでしょうか?

GIESEN JAPAN

2006年から20年近くのキャリアを活かして、ロースターさんからのフィードバックを反映させてきた印象があります。

プローブの位置は、この1、2年で大きく変わっています。様々なフィードバックを受け、豆の温度を最も正確に測定できる位置を探りながら、可能な限りそれを実現しています。その柔軟な対応と改善を重ねる姿勢から、技術的なアップデートがしっかり進んでいるという印象を受けます。

幅広いラインナップとプロフェッショナル評価

編集部

そういう技術的なアップデートが、GIESENの柔軟で進化し続ける姿勢を物語っていますね。

焙煎機のラインナップについて教えていただけますか?

GIESEN JAPAN

1.5kgから140kgまで幅広いラインナップをご用意しています。具体的には、1.5kg、6kg、15kg、45kg、60kg、140kgのモデルがあり、あらゆる規模のニーズに対応可能です。

編集部

ロースターの方々からの評価は、具体的にどのようなものが寄せられていますか?特に、焙煎機の性能や使い勝手についての意見をお聞かせいただければと思います。

GIESEN JAPAN

味作りの幅広さに関しては、非常に満足していただいています。浅煎りから深煎りまで対応できますし、特に深煎りは素晴らしいなと思います。

ボディ、甘み、フレーバーのバランスもすごく優れているので、エスプレッソの豆を焼くときには、ドラム式の半熱風焙煎機が特に味のコントロールに優れていると感じています。

ロースターが1日20バッチ、30バッチと焙煎しても安定して使用できる点も、大きな強みだと思います。

GIESEN W30A
15kg〜30kgの焙煎が可能なW30A
編集部

30kgの大型ロースターは、外観が大きいだけでなく、機能面でも他とは一線を画しているようですね。

GIESEN JAPAN

30kg以上の大型ロースターには、タッチパネルを備えたパソコンによるコントロールシステムが標準装備されています。一方、30kg以下のショップロースターでは、必要に応じて自身でパソコンを接続する形になります。

GIESENの素晴らしい点は、1.5kgから140kgの全モデルで同じシステムを採用しているため、基本的な操作感が統一されていることです。サイズが変わってもアルゴリズムが変わることが少ないため、焙煎の安定性が保たれる点が特徴です。

GIESEN W6A
W30Aのコントロールパネル
編集部

今後は30kg以上のモデルに注力していく予定ですか?

GIESEN JAPAN

私たちは、ロースターの方々と共にどのように成長していけるかを描きたいと考えています。

焙煎は製造業でもあるため、常にアップグレードを見据えた形で焙煎機を使っていただければと思います。

編集部

ロースターが規模拡大を見据えて新たな設備を検討する時に、困るケースはあると思いますが、そんな時にGIESEN JAPANならではの強みはありますか?

GIESEN JAPAN

ビジネスが拡大するにつれて、大容量の焙煎機が必要になることがあります。その際、GIESENはその規模に合ったサイズのモデルを提供できる点が強みです。また大型機専用の消煙設備や石取り機、生豆コンベアなどの作業効率を上げる提案もしています。

スペシャルティコーヒー市場やロースターの規模は日本と海外で異なるかもしれませんが、140kgモデルのような大きなサイズがあることで、ロースターの成長に柔軟に対応できます。

編集部

この140kgモデルの導入メリットはどこにあるのでしょうか?

GIESEN JAPAN

例えば、70kgモデルが最大の場合、次のステップで同じ70kgモデルをもう一台購入することになると、人件費も2倍に増えてしまいます。そうした局面で、140kgモデルがあれば、より効率的にビジネスを拡大できます。

規模が大きくなってから、他のメーカーを導入して焙煎プロファイル等を再構築するのは、コスト面でも難しい場合があると思います。そういうタイミングで、GIESENの140kgモデルが選択肢に入るのは大きな利点です。

有名なロースターですと、オーストラリアのONA COFFEEさんはGIESENの140kgを使用されています。

編集部

最近特に需要の高いサイズはどれですか?

GIESEN JAPAN

最近では15kgの焙煎機を導入するロースターが増えています。GIESEN JAPANがスタートした頃は、1kgや6kgが主流だったのが、今ではどのメーカーもそのラインナップを揃えていますよね。

少しずつ規模が大きくなる過程で、どのメーカーの焙煎機を使うかというのは、非常に重要な選択になってきます。

編集部

買い換えられるケースは多い?

GIESEN JAPAN

最近、1kgの焙煎機を購入したロースターさんが、1年後には容量が足りなくなり、6kgのモデルに切り替えるというケースが増えています。さらに次のステップとして、15kgの焙煎機を導入するためのスペースを確保しているロースターさんもいらっしゃいます。

規模が拡大していく中で、私たちもその成長に合わせてサポートしていきたいと考えています。メンテナンスなども含め、ロースターさんが安心して運営できるよう、しっかりと対応していきます。

編集部

ロースターとの関係をどのように構築し、発展させていきたいかを考えられてますね。

GIESEN JAPAN

毎年、1ST CRACK COFFEE CHALLENGEのチャンピオンと一緒にオランダに行くのですが、そこで第一回チャンピオンのFUKUSUKE COFFEE ROASTERY三浦さんの時は60kgで焙煎してもらって、第二回チャンピオンのou.bai.tou.ri小玉さんの時は15kgの電気式があったので、それで焙煎してもらいました。

僕らは、ロースターさんに将来のビジョンを伺い、それをお互いに共有しながら方向性をすり合わせていくことが、非常に重要だと考えています。

日本市場での展開とサポート体制

編集部

アフターフォローについては、どのようなサポート体制を整えているのでしょうか?

GIESEN JAPAN

アフターフォローですが、現状の拠点は東京になりますが、九州はGIESENを使ってるロースターさんも多くて、次は福岡にも拠点を準備したいと思っています。

また、各エリアでメンテナンスを専門にやられている会社さんとの協業もいくつか話が進んでいます。故障から修理までのリードタイム短くするというのは、僕らの課題です。

GIESEN W6A

未来へのビジョンと競技会を通じた業界貢献

編集部

これからのGIESEN JAPANの課題は、さらに多様なニーズに応えつつ、日本市場での存在感を強化することですね。

GIESEN JAPAN

先ほど、ロースターと成長していくみたいなことを話しましたが、日本はマイクロロースターが多いです。

GIESEN JAPANのひとつの目標が、毎年行われている1ST CRACK COFFEE CHALLENGEのチャンピオンをロースターとしていけるとこまで成長させられないかと思っています。

その理由で年齢制限を設けていて、ある程度若手の人たちのステップが見えて、それが業界を支えていくのかなと思うんです。

微力ですけど、そういう競技会をやりながら、僕らもやりたいことをしていきたい。

編集部

大きなサイズの焙煎機が普及すれば、日本の市場にも新たな可能性が広がりそうです。

GIESEN JAPAN

30kgの展示はSCAJでははじめてでした。スペシャルティって小釜の方が焼きやすいというフィードバックをいただくんですけど、30kgでも美味しく焼けるよっていうのは伝えていきたいです。

海外では30kgや45kgで焙煎してるロースターが多く、どこも美味しいです。浅煎りのシングルとかを焙煎してますからね。

ビジネスとアートの融合、というのがギーセンジャパンの目指したい世界かもしれません。

Photos & Interview & Text & Editor: 疋田 正志
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