Only Roaster(オンリーロースター)

焙煎の可能性を広げる技術革新──サンプルロースター「LINK」

2024.11.29
LINK

豆のポテンシャルを最大限に引き出し、無駄を省きながら高品質なコーヒーを提供するための重要なツールであるサンプルロースター。

2015年WBC(World Barista Championship)のササ・セスティック(Sasa Sestic)が立ち上げたNucleus Coffee Toolsより発表されたサンプルロースター「LINK」の最大の特徴は、焙煎プロファイルを自ら組み立てる必要がなく、生豆の情報をスマートフォンアプリに入力するだけで最適な焙煎プロファイルを算出し、本体に登録すれば手軽に焙煎が行えるのが最大の特徴。

今回の対談では、「LINK」の輸入販売代理店をつとめるFBCインターナショナルのゼネラルマネージャー 上野 紘さんにインタビュー。プロフェッショナルからホームユーザーまで、幅広い層に支持される「LINK」の魅力と人気の秘密に迫る。

競技会で証明された実力

編集部

Nucleus Coffee Toolsから発売された「LINK」がついに日本でもFBCさんからリリースされました。同時に話題を呼び、大きな注目を集めています!

FBCインターナショナル

Nucleus Coffee Toolsチームのゼネラルマネージャーであるサム・コラ(Sam Corra)が開発を手掛けて、ハードウェアのメーカーのKaffelogicと共同で開発しました。

上野 紘
上野 紘。FBCインターナショナルゼネラルマネージャー。SCAJバリスタ委員会副委員長。国内外のコーヒー展示会に足を運び、最新のコーヒーツールを取り扱うことに力を入れる一方で、国内外の大会にも積極的に参加。バリスタのトレーニングやサポートを行い、業界全体のレベル向上に尽力している。バリスタ委員会として、JBC(Japan Barista Championship)、 JCIGSC(Japan Coffee In Good Sprit Championship)、JLAC(Japan Latte Art Championship)の大会運営に注力。大会を通じて、バリスタの技術やコーヒー文化の発展に寄与している。
編集部

競技会でも使われているんですか?

FBCインターナショナル

2021年ミラノ大会のWBrC(World Brewers Cup)で、オーストラリア人のMatt Wintonがプロトタイプを使って優勝したんです。2024年シカゴ大会のWBrCでも、オーストリア人のマーティン・ウルフ(Martin Wölfl)が、この「LINK」で焙煎されたコーヒーで優勝しました。

編集部

それはすごいですね!

FBCインターナショナル

WBrCで結果を残せたことで、「LINK」のポテンシャルが証明されたと思います。

これからはさらに多くの人に使っていただけるよう、可能性を広げていきたいですね。

Nucleus LINK

「常温スタート」の真価とは

編集部

では「LINK」の使い方についても教えていただけますでしょうか。

FBCインターナショナル

サムが重視しているのは、誰でも簡単に焙煎が行えるということです。

スマートフォンアプリに生豆の情報を入力すると最適なプロファイルが算出されます。それを本体へ入力すれば簡単に焙煎をスタートすることができます。さらに焙煎の特徴でいうと、予熱をせず常温から焙煎を始めることに大きな意義があるという点です。

編集部

常温から焙煎を始めるというのはめずらしいですね。それにはどんな意図や効果があるんですか?

FBCインターナショナル

生豆には目に見えない小さな気孔があるんです。

予熱をし高温の状態で生豆を投入すると、この気孔が開き、カロリーを与える際に発生するガスが豆本体に蓄積されていきます。その後メイラード反応が起こり、豆の表面がコーティングされるため、豆にはそのガスが蓄積された状態で焙煎が完了するんです。

編集部

人間が風呂に入ると毛穴開くのと同じですね。

FBCインターナショナル

Nucleus Coffee Toolsチームは、チューリッヒ大学と共同でコーヒーの研究を科学に証明し続けています。

その研究結果の一つに、コーヒーの香りは焙煎後24~36時間後にピークを迎えることがわかりました。しかし、このタイミングではガスが多く残っているので飲みづらいですよね。そこでガスの蓄積を抑え、豆のポテンシャルを最大限に引き出す常温での焙煎がポイントになります。これにより、焙煎直後でも豆のポテンシャルを十分に感じていただけるカップに仕上がります。

編集部

ということは、WBrCで使われた時に、チャンピオンは競技の36時間以内に焙煎した豆を使用していたのでしょうか?

FBCインターナショナル

必ずしも全てのコーヒーが36時間後にピークを迎えるというわけではありません。実際にWBrCで優勝したマーティンは、焙煎から6日目の豆を使用したようです。

彼は毎日焙煎を行い、日々調整を重ねてベストと感じた豆を選んでいます。状況に応じて柔軟に対応できるのは、「LINK」のような機材がもたらす新しい時代の利点だと思います。従来はスーツケースに複数の焙煎機材やサンプル豆を持参する必要がありましたが、「LINK」1台があれば現場での調整が可能になります。これはWBrCならではかもしれませんが。

LINK Studio

アプリ連携で理想の焙煎を実現する

編集部

一度に焙煎できる最大量はどれくらいですか?

FBCインターナショナル

50gから100gの少量焙煎で、この特性により精密なデータを活用した焙煎が可能です。ただし、焙煎量を増やすとこの利点が損なわれるため、少量での焙煎が重要とされています。

最近では農園主の努力により素晴らしい品質の生豆が増えてきましたよね。農園主が焙煎技術を習得する必要性はないとサムは語っていました。その代わりに生産プロセスや品質向上に集中するべきだと。

サムが作成した800以上の焙煎プロファイルがアプリに収録されています。必要に応じていじれますが、基本的にプロファイルをそのまま活用していただければ最高の体験をしていただけます。

編集部

温度やフェーズごとの時間を都度調整するのではなく、アプリに登録されている800種類のプロファイルから豆に合ったものを選んで、自動で焙煎するという仕組みなのでしょうか?

FBCインターナショナル

はい、そうです。

もちろん、ご自身で焙煎プロファイルを一から作り上げることも可能です。その場合はパソコンに接続して設定を行えます。基本的にはスマートフォンやiPadの専用アプリLink Appを使って、生豆の情報を入力して焙煎を進めていきます。

Nucleus LINK
Link Appを使うと、スマホからカスタム プロファイリングを行うことができる。
編集部

普通はプロファイルを自分で作らないといけないし、試行錯誤も多いところ、「LINK」では最適化されたプロファイルがたくさん揃っているから、自分の理想的な焙煎ができるわけですね。

FBCインターナショナル

他の焙煎機では、プロファイルを自分で作成しなければならない。さらにスクリーンサイズが異なる豆だと、同じプロファイルでも同じようには焼けません。

そのため、ノウハウを積み上げるためにどれだけの時間と失敗を重ねる必要があるかという問題があります。サムはその点に着目して、もっと簡単に理想的な焙煎ができる方法を提案しています。計算式を入力するだけで、誰でも美味しい焙煎が実現できるのです。

さらに、現代的だと感じるのは、アプリ内のアシスタンス機能を利用すると、バーチャルアシスタントにアクセスできるところで、このAIチャット機能は、95か国語に対応しています。

編集部

投入量は何グラム以上が推奨みたいなものはありますか?

FBCインターナショナル

最低は50gから焙煎は可能ですが、計算式を活用する場合には、少なくとも70gは必要になります。

それ以下だと正確な計算が難しくなってしまいます。

編集部

もはや焙煎の技術うんぬんっていう時代じゃなくなりましたね。

FBCインターナショナル

そうですね。ただ100gのサンプルロースターのため、ビジネスとしては、やはり焙煎士が必要不可欠です。

オリジナルのおいしさのピークを引き出すには、焙煎士の技術が重要ですし。「LINK」の魅力は、用途に応じて柔軟に使い分けができる点です。サンプルローストを行うには技術を必要とせずに、生豆のクオリティを簡単にチェックすることができることはもちろん、品質を重視したプロセスを実現できます。

編集部

アプリとの連携で、さらに便利に使えるんですよね?

FBCインターナショナル

スマホのアプリやPC用の「LINK Studio」も定期的にアップデートされていて、最新機能が追加され続けています。

LINK Studio
専用のアプリケーション「LINK Studio」を通じて、焙煎プロファイルのカスタマイズやリアルタイムの調整が可能。
編集部

これは熱風式ですか?

FBCインターナショナル

はい、熱風式です。下から熱風が出てきて、豆がかなり不均一に跳ね回るように見えると思いますが、これは意図的な設計です。

常温から焙煎を行うなかで前半に一気にカロリーをかけていくのですが、意図的に不均一に跳ねることで全体に熱を与えることは可能となります。よって焙煎のムラが少なく仕上がるのです。

編集部

現在の設定をそのまま使えば、次の焙煎でも高い再現性が期待できますか?

FBCインターナショナル

再現性は非常に高いです。なぜなら、常温から焙煎を始めるため、投入温度やカロリーがずれる心配がなく、毎回同じ条件でスタートできるからです。

余熱を必要とする場合は、温度のばらつきが出やすいですが、「LINK」ではそれがありません。なので、頑張れば1時間で6バッチほど焙煎が可能です。

編集部

効率的で安定した焙煎が求められる現場にはぴったりですね。

チャフの処理などは簡単にできますか?

FBCインターナショナル

焙煎が完了するとホッパーにチャフが自動で溜まり、簡単に捨てるだけで清掃が完了します。本体はダブルウォールのガラスで、ブラッシングだけで手入れができるので、水洗いの必要がありません。

LINK Studio
ホッパーに溜まったチャフ。ブラッシングだけで手入れができ、水洗いの必要もない。

誰でも楽しめる、自分だけの焙煎体験

編集部

プロフェッショナルな方からの需要が多いと思いますが、それ以上にホームユーザーの方の需要も多いんですか?

FBCインターナショナル

「家で使っています」という声も多く寄せられています。好みに合わせた焙煎が簡単にできるのが魅力です。例えば、「今のプロファイルで十分だけど、もう少し浅煎りにしたい」「火入れを最後にもう少し加えたい」のような、自分だけの焙煎を作り上げることができるので。

コーヒーの楽しみ方の幅が広がって、焙煎という工程がより身近で簡単なものになったのではないでしょうか。

編集部

ホームユーザーの方が購入したときに、ここでお話しした内容を十分に理解できるのでしょうか?

FBCインターナショナル

まだ英語版しかなのですが、YouTubeで次々と更新されているので、それを日本でも今、サムと一緒にコミュニティを作れたらという話があります。

来年からセッションでの活動を通じて、もっと身近にいいコーヒーに触れ合えたり探求ができる場ができたらと。弊社としても、この取り組みを前向きに進めていきます。

サム・コラ(Sam Corra)
「LINK」開発者のNucleus Coffee Tools ゼネラルマネージャー サム・コラ(Sam Corra)。

FBCインターナショナルの挑戦とこれから

編集部

FBCインターナショナルについて詳しく教えていただけますか?

FBCインターナショナル

創業時からピッチャーやショットグラスなど、さまざまな商品を手がけてきました。当時はガラケーでのインターネットが主流で、海外ショッピングは難しい時代でした。

しかし、今ではスマートフォンが普及し、海外との取引が容易になり、これまでと同じラインナップや宣伝方法では時代に合わないと感じています。

編集部

時代の変化がこれほど早いと、過去のやり方に固執することなく柔軟に対応していく必要がありますね。

FBCインターナショナル

今後5年、10年を見据え、どのような商品を展開し、どのような価値観を従業員やお客様と共有していくかが課題です。

その一例が「LINK」のような焙煎機です。焙煎の経験がない人でも簡単に高品質なコーヒーを楽しめる時代が到来しました。

これからさらにオートマチック化が進むかもしれませんが、最終的な判断には人間の感性や経験が欠かせません。

編集部

たしかに、オートマチック化が進んでも、最終的には人間らしい判断が求められる場面も増えてきそう。

テクノロジーと人間の感性のバランスがカギになるんですかね。

FBCインターナショナル

情報が溢れる中で、それを精査し、自ら体験する力がこれからの時代にはますます重要になると考えています。

編集部

情報が溢れている現代で、なにを大切にしていますか?

FBCインターナショナル

探究心です。今は情報を調べにいかなくても、情報が勝手に集まってきます。そうすると自ら調べて体験を求める機会が減っていってしまいます。

さらに大人になると「なんで?」と思わずにやってないことを、どうせこうなる、と決めてしまい可能性を閉じてしまいます。今は子どものころのような「なんで?」と思うことをとても大切にしています。

僕は今が人生で一番コーヒーを楽しめているし、コーヒーに対して毎日「なんでこうなるの?」と考えています。「LINK」を通じて焙煎にも深く興味を持つことができました。10年後、今の「なんで?」の集大成がより一層FBCを強くしてくれると信じています。

Photos & Interview & Text & Editor: 疋田 正志
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