焙煎の現場に立ち続ける、日本製の誇りとものづくりの姿勢──フジローヤル

国内外の焙煎所で高いシェアを誇る富士珈機、通称〈フジローヤル〉。日本を代表する焙煎機メーカーとして、半世紀以上にわたり多くのロースターとともに歩み続けてきた存在だ。近年、海外メーカーの焙煎機が注目を集めるなか、なぜ今もなお〈フジローヤル〉が選ばれ続けているのか。
その理由を探るべく、今回は東京支店長として機械のサポート全般を担う杉井悠紀さんに話を聞いた。操作性やメンテナンス性、味づくりを支える構造や設計思想まで。現場に寄り添い、ロースターとともに歩む〈フジローヤル〉の現在地をひもといていく。
選んでくれた方にしっかり向き合う焙煎機づくり
焙煎機作りにおいて一番大切にしていることは何ですか?
最近は海外の焙煎機に憧れる若いロースターの方も増えてきて、その流れも実感していますし、そうした新しい価値観を否定するつもりはまったくありません。
海外メーカーの焙煎機ってデザインも洗練されていて、かっこいいと思いますし、浅煎りとも相性が良く、スペシャルティに特化した設計だったり、そういった部分が支持されているのもよくわかります。
ただ、私たちとしては、まず〈フジローヤル〉を選んで使ってくださっている方々に対して、しっかりと向き合っていくことが何より大切だと思っています。
味わいや仕上がりで評価してくださる方、外観も含めて気に入って使ってくださっている方は多くいらっしゃるので、そういった方たちに対して、しっかりとしたサービスやメンテナンス体制を提供していくこと。それがいちばん大事にしている部分です。
熱を操るための設計思想
海外メーカーの焙煎機については「蓄熱性が高い」という特徴をよく耳にしますが、〈フジローヤル〉の焙煎機ならではの特徴を挙げるとしたら、どんな点になりますか?
確かに、それはよく言われますが、だからといって〈フジローヤル〉の蓄熱性が劣っていて焙煎しにくいというわけではありません。むしろ蓄熱性が高すぎると、熱が抜けにくく操作性が下がるケースもあります。逆に言えば、操作性がいい、必要な蓄熱性を備えつつも、熱のコントロールがしやすく扱いやすい。
「蓄熱性が高ければいい」という単純なものではないと思っているので、焙煎士の意図に応じて繊細な調整ができる操作性の高さこそが、私たちの機械の強みだと思っています。

ドラムの厚みひとつで、焼き具合が変わる
操作性の良さや調整のしやすさは、日々の焙煎にとって本当に大きな要素だと思います。
その他にも、長く使ってもらうために意識しているポイントはありますか?
焙煎機はあくまでコーヒーを作るための道具なので、まずは必要な機能をしっかり備えていることが大事です。そのうえで、メンテナンスのしやすさや耐久性、長く安心して使えるかどうか、商売道具として信頼できるかという点がとても重要だと考えています。
もちろん味づくりができるのは大前提ですが、結局は熱の加え方や風量などのバランスで味をコントロールしていくものなので、焙煎に必要な性能がきちんと備わっていれば、細かな仕様の違いに過度にこだわる必要はないとも思っています。
それよりも、総合的に見て安心して使い続けられるかどうかが、焙煎機選びで大きなポイントになると感じています。
たしかに、中には熱を一度下げてから次の焙煎をしたいというロースターもいますが、蓄熱性が高すぎる機種だと、次のバッチまでに十分に熱を下げるためのインターバルが必要になることもありますね。
そういう意味では、〈フジローヤル〉のような焙煎機が、そのスタイルに合っている場合もありますね。結局は、焙煎機の良し悪しではなく、ロースターの使い方や考え方次第なのでしょうか。
浅煎りの場合は、ある程度の蓄熱性があって、最初にしっかり熱を加えられる方が、フレーバーを引き出しやすいと思います。ただ、そこを突き詰めすぎると扱いが難しくなることもあります。
実際、ジャパン コーヒー ロースティング チャンピオンシップ(JCRC)2024で1位の大貫さんと2位の勝本さん、競技会で結果を残された方々も、〈フジローヤル〉の3キロ釜を使っていただいてますので、しっかりとした味づくりは十分可能だと感じています。
やはり味づくりにおいては、釜の構造や素材も大きく影響するんですね。
ドラムの違いで、具体的にはどんな変化があるんでしょうか?
ドラムの材質や構造によって、焙煎の影響は大きく変わります。たとえば板厚を2.3ミリから5ミリに変えると伝導熱が強くなり、焼き具合にも明確な違いが出てきます。
内部の羽の角度や形状も重要で、撹拌の度合いや風の当たり方が変わります。半熱風式だと後方から風が流れ込む構造のため、その風と撹拌とのバランスが味づくりに直結します。
大型機になるとその差はより顕著で、同じ量の豆でも設計によって焙煎時間や仕上がりに大きな差が出ます。実績のある焙煎機であれば、あとは使い手の工夫と技術次第だと思います。
〈フジローヤル〉の焙煎機には、直火式と半熱風式がありますが、それぞれの熱の入り方や香味への影響について、どのように捉えていますか?
フレーバーやテイストが強くでやすいのは直火ですが、他のタイプと比べると直火は煎りムラがでやすく焦げやすいといったデメリットもあります。もちろん操作が適正におこなえればそういったことにはなりません。
操作の調整幅や味の作り込みといった点に強みがあるのは直火ですが、味・操作性のよさ・メンテナンス性などトータルのバランスの良さで考えると半熱風がよいと考えます。
直火式と半熱風式の両方をラインナップに揃えるようになった経緯
直火式と半熱風式がでてきて経緯というのは、明確な情報はありません。
可能性としてあるのは、昔はガスの事情がよくなく6A、5Cなどの発熱量の低いガスが主流で、直火でないと焙煎が思うようにできなかったので、直火がスタンダードだったのではないかと思います。
あくまでも推測ですが、こういった事情が背景にあったのではないかと思います。

焙煎士の技術に応えるサンプルロースター
DISCOVERYを開発したきっかけや、想定したユーザー像などありましたか?
DISCOVERYは、100〜200gといったサンプル豆の焙煎にちょうど良いサイズとして設計されたものです。
当初から家庭での使用も視野に入れていたそうです。サンプルロースターとしての定番ともいえるヒット商品になっています。
大きなロースターの横に、DISCOVERYも置かれてるのはよく見ます。
DISCOVERYは中古市場でもほとんど出回ることがありません。オークションなどでも1kgなどの機種は時折出ることもありますが、DISCOVERYの流通は非常に少ないです。
出回らないというのは、手放したくない理由があるということですよね。
味づくりの再現性はもちろん、操作の自由度や調整幅の広さもあって、自分の技術でコーヒーを焼いているという実感を持てる。そういう設計思想が、DISCOVERYには色濃く反映されています。
海外メーカーの焙煎機は「誰が焼いてもそれなりに美味しく仕上がる」よう設計された、合理的な道具という印象があります。
たとえば、プロバットのサンプルロースターはシンプルながら安定した仕上がりで美味しく焼けます。一方で、DISCOVERYは、しっかりした知識と技術がなければ美味しく焼けない。
サンプルロースターひとつ取っても、設計思想の違いを感じます。
求められる技術の幅が違うというのは、たしかに設計思想の違いを物語っていますね。
火力やダンパーを微調整できるアナログな操作性は、日本人的な繊細な感覚にも合っていて、〈フジローヤル〉の魅力のひとつだと思います。細かな調整を積み重ねていける余地があるのが、良さかもしれません。

REVOLUTIONという機種もありました。
REVOLUTIONはすでに廃番となりましたが、完全熱風式のマニアックな機種でファンの調整や蓄熱の管理など、使いこなすには高い技術が必要ですが、そのぶん再現性や味づくりの精度は非常に高く、使いこなせたロースターからは「最高の機械」と大絶賛されています。
すぐ聞けて、すぐ応えてくれるサポート力
どのようなロースターに選ばれることが多いですか?
日本製というところに安心感を持っていただいてることと感じています。
確かに、〈フジローヤル〉を使ってるロースターさんに選んだきっかけを聞くと、日本製というところと、アフターサポートやメンテナンスの面で良かったという方が多かったですね。
海外メーカーの焙煎機と比較した際によく聞かれるのが、「〈フジローヤル〉の強みは何ですか?」という質問です。
その答えとして一番に挙げたいのが、メンテナンス性とサポート体制の安心感です。実際、ユーザーの多くが日本製であることに加えて、アフターサポートの充実を理由に〈フジローヤル〉を選ばれています。私たちもその信頼に応えるべく、できる限り迅速かつ丁寧な対応を心がけており、それが他社との大きな違いになっていると感じています。
すぐ連絡が取れて、すぐ来てくれる。その対応の早さが、何よりの安心感につながっていますね。
電話対応を続けるのは正直大変です。でも“すぐ聞けて、すぐ答えてもらえる”という安心感はやっぱり大きい。だからこそ、今も電話での問い合わせにはできる限り応じています。
現行モデルの外観は、昔からあまり変わっていないように見えますが、細かなアップデートはされているのでしょうか?
ロースターさんからの意見はかなり多いです。バーナーの追加や距離を出してほしい、角度を変えられないか、吸気口を変えられないかなど、細かな提案が寄せられます。そうした声を反映し、実際にこれはいいと評価されたものは仕様にも反映しています。

今、焙煎機って何人ぐらいで作られてるんですか?
製造は3〜4人ほどで対応。DISCOVERYは埼玉の工場で、主に2人で担当しています。規模の大きな会社に見られがちですが、実は少人数で回しています。
焙煎機を作ることって職人技だと思うのですが、そのような技術はどのように継承されているのでしょうか?
焙煎機の製造は、職人の経験と感覚に根ざした高度な技術が求められる仕事であり、簡単に言葉やマニュアルだけで伝えられるものではありません。
かつては一人の職人がすべての工程を担い、その場その場で最適な加工や調整を行っていたため、機械ごとに個体差が生じることもありました。現在は、品質の安定と再現性を重視し、部品ごとの製造工程をマニュアル化し、外観や焙煎性能を含めた厳格な検査項目を設けることで製品の精度と均質性を高めています。
それでも製造現場で培う経験の重要性は変わらず、トラブル対応や細かな調整といった応用力は、実際の作業を重ねる中でしか身につかない部分も多い。技術の継承には、マニュアルと実地経験の両方が欠かせないというのが現場の実感です。

フジローヤルでしか出せない味がある
これまでの中で、ロースターさんとのやり取りで印象に残っているエピソードなどありますか?
焙煎機を買い替えるタイミングで、長くロースターを続けている方が、再び〈フジローヤル〉の焙煎機を選んでくださることがあります。そういう時には、よく「なぜ〈フジローヤル〉を選んだのですか?」と尋ねるんです。海外メーカーの選択肢もある中で、どうしてうちの機械なのかと。
そうしたら、「いろいろな機械でテストしたけれど、〈フジローヤル〉でしか出せない味がある」「自分たちが出したい味が、一番出しやすかった」といった声をいただくことが多いんです。
買い替えを考えるロースターさんは、ある程度キャリアもあり、金銭的にも余裕が出てきて、どんな機械でも選べる状況にいる。そんな中で、価格ではなく「味」でうちの焙煎機を選んでいただけるというのは、本当に嬉しいことだと感じています。
数年前から〈フジローヤル〉が主催の焙煎の大会もされていますが。
豊潤富士カップは2024年から始まりましたが、正直、準備は本当に大変で、主催側としてはかなりしんどい部分もあるんです。でも、参加される方がとても熱心で、意欲的な方ばかりなので、やってよかったなと思えるんですよね。
「すごく勉強になりました」とか、「本当に参加してよかったです」という声をもらうと、また来年も頑張ろうって思えるんです。「次も開催してくださいね」「また出たいです」っていう声も多くて。
今度で3回目になるんですが、なんとか続けられたらいいなと思っています。
1回目と比べて2回目は、参加を希望されるロースターさん多かったのではないですか?
ジャパン コーヒー ロースティング チャンピオンシップ(JCRC)で優勝された大貫さんも2位になって、3月には決勝が行われる上海の大会に出場されました。それが、World Coffee Roasting Championship(WCRC)の1ヶ月前で。
実際に上海の大会に出てみて、すごく勉強になったと話していて、そういう声を聞くと、こういう場をつくっている意味があるなと感じます。
競技会で結果を残されたロースターさんが〈フジローヤル〉を使っていれば、イメージは変わってきそうですよね。
若い方って、どうしても海外の焙煎機に憧れる部分もあると思うんですよね。雑誌なんか見ても、海外メーカーの機械は見た目もかっこいいし、そういう機械を使ってるお店も多い。それに惹かれるのも当然だなとは思います。
だからこそ、若い世代にどう訴求していくかっていうのは、ひとつ課題だと感じています。もし、今やっている取り組みがそういう部分にプラスになっているなら、すごく価値があることだなと思います。

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