「正式代理店にならない」からこそ実現する、新しい焙煎機との向き合い方──BESCA
トルコ発の焙煎機メーカーBESCA。「高品質でありながら手の届きやすい価格帯」「焙煎プロセスの細部まで考え抜かれた設計」。これらは、BESCAの製品が持つ特徴のほんの一部だ。今回の対談では、BESCAを深く理解し、その魅力を日本に伝える蒲原豪さんにお話を伺った。
蒲原さんは、代理店ではない。それでも購入したいと願う人々のために、BESCA JAPANを立ち上げ全力でサポートしている。個人輸入の経験から、製品への理解を深め、現場の声をメーカーに届ける。これは、焙煎愛好家としての純粋な情熱から生まれた取り組みである。その独自の視点とメーカーとの信頼関係が、BESCAの日本での存在感を強くしている。
「自分が信じた製品だからこそ、その魅力を正しく伝えたい」。その想いを胸に語ってくれたストーリーには、焙煎機の性能や設計思想を超えた、人と人との繋がりがあった。
市場に新たな価値を提供する挑戦
近年注目を集めているBESCAですが、その魅力を教えていただけますか?
BESCAは設立以来、世界の一流ブランドと競争することを目指してきました。
現在、BESCAと競合するトルコ国内の企業はありません!技術的な生産基盤と機器の品質に関しては自信があり、最高品質の製品を提供できる様になっています。
BESCAが焙煎機を作り始めた背景や目的、創業の経緯などお聞きしたいです。
創業者であるエルカン アイディン(Erkan Aydin)は、BESCAブランドを立ち上げるまでこの分野で15年の経験を積んできました。
その過程で、焙煎機市場が少数の有名メーカーで独占されており、特にスペシャルティコーヒーショップにとっては、これらの高コストのメーカーに代わるものがないことを目の当たりにしました。
BESCAは、創設から10年間が経ちますが、低価格で高品質の製品を作りあげ、焙煎機=高価格という概念を崩すことに成功しました。そのことが創業の目的のひとつです。
そのアプローチは、スペシャルティコーヒー業界にとって大きな変化をもたらしたといえますね!
BESCA製品における特別な素材や技術について、また、他のメーカーと比較して際立っている点やユニークな設計思想についてもあればお聞きしたいです。
高品質を支えるプレミックスバーナーと断熱性
すべてのBESCA製品には、点火前にガスと空気を適切な割合で混合するプレミックスバーナーが採用されています。
先に空気とガスを混合するため、本体を密閉にできるので断熱という面でも有利になります。
ガスと空気を混合する仕組みで断熱性を高めている、ユニークですね。
このバーナーは、ドラム下の燃焼室で作動するため、焙煎中の対流速度は従来のバーナーシステムよりもかなり高くなっています。
あとは、焙煎の安定性を最大限に高める為に、ロースター本体に高い断熱性をもたせて、焙煎プロセスが外気の影響を最小限に抑える様に設計されております。
その結果、フレーバーを引き出すために排気を強くした焙煎でも、釜の中の温度低下を起こさず焼き上げることも可能になっています。
焙煎中の対流速度を高めたり、外気の影響を最小限に抑えたりする工夫で、フレーバーの引き出しや安定した焙煎を可能にするわけですね。
2024年にGen IIとして焙煎機の構造を大きく進化させ、従来よりもさらに断熱性を向上させました。ドラム内の熱風の流れを、より正確に制御することにも成功しています。
Gen IIというのは?
Gen IIはジェネレーションの略で、第2世代機みたいな意味です。2024年からリリースされる機種で、そこで大幅に設計などの見直しを入れています。
ニューモデルに置き換えられるんですね。
この2年間で、特にソフトウェアにおいても多くの発展がありました。焙煎業者に最も期待されているのは、焙煎機の性能と同様に生産工程における一貫性だと思います。
BESCAは、クロップスターとの互換性を最大限に高めるため独自のソフトウェアを開発し、この分野の第一人者である焙煎業者やトレーナーと協力し続けています。
トレンドと環境への対応
焙煎業界の現在のトレンドや変化には、どのように対応していますか?
最新の技術や市場のニーズ、環境への配慮などあれば教えてください。
トレンドや最新技術には敏感に対応し、技術チームは常に新しい技術を取り入れようとしています。
私も毎日の様にBESCAチームとはチャットルームで会話をしております。時差の問題もあり深夜まで会話が続くことがありますが、創業者のエルカンまで会話に参加しているので、抜ける訳にはいきません(笑)
創業者も参加されるんですか(笑)
そうなんです(笑)
このチャットで実際に使用しているロースターさんの声を伝え、改善・改良もしてくれています。
実際に日本からは、塗装の品質向上や温度センサーの位置変更、卓上タイプの500g釜と1kg釜のクーリング排気に排気管を繋げる様に設計の見直しなどを要求しましたが、柔軟に対応してくれました。
具体的な提案が反映されるんですね。実際に使う人の視点が活きているのは素晴らしいです!
環境問題につきましては、高性能なメタルニットバーナーを採用することで、従来のバーナーと比較して効率がよく、省エネというだけでなく窒素酸化物や一酸化炭素などの有害物質の排出を抑えています。このバーナーを採用するにはコストもかかるのですが、焙煎において重要な部分になりますので妥協はしません。
他には、水素で動く焙煎機の開発も視野に入れておりまして、ドイツの専門業者とコンタクトをとっているそうです。これが実現したら面白いなと個人的にも楽しみにしています!
確かにトルコには多くのコーヒー焙煎機メーカーがありますが、多くのブランドが価格だけで競争しており、製品の開発には力を注いでいるのか疑問を感じます。
BESCAとしての目標は、品質の面でトルコ内の企業と差別化を図りながら、価格の面でヨーロッパやアメリカの競合他社に対して有利な立場に立つことです。
「低価格でありながら高品質」このことを一番に考え製品開発に取り組んでいます。
確かに価格だけでなく、品質や技術開発への投資も重要ですよね。BESCAがそうした姿勢で開発を進めている点は、他のメーカーとの差別化になりますね。
私はチャットで技術・製品開発チームに「本体下のスペースに、コントロールパネル内のパーツを組み込んで一体型にすれば、もっとコストを抑えられるのでは?」と提案したのですが、「ガスシステムと大電力の装置を一緒にするべきでない。確かにコストは抑えられるがBESCAが求めているのはそこじゃない」と。
高価なバーナーを採用したりコントロールパネルをセパレートにしたり、とにかく「良い物を造りたい!」という気持ちがチャットで伝わってくるのです。
焙煎機のラインナップについて教えていただけますか?
ラインナップは、500g、1kg、3kg、6kg、10kg、15kgとあり、全てのモデルでマニュアルかオートが選択できます。
6kg釜までは単相100vで稼働可能なのも魅力のひとつです。
6kgまでが単相100Vで動くというのはかなり便利ですね。家庭でも使えるような手軽さがあるのはいい!
本体カラーもRALカラーチャートから選択できて、ウッドパーツも無料で変更可能なので、好みのマシンに仕上げることができます!
購入後のサポート体制
大きなところとしては、BESCAには代理店がないということですが。
BESCA製品の導入後のサポート体制やメンテナンスはどうなっていますか?代理店がない分、どのようなサポートがあるのか気になります。
そこは輸入製品で一番心配な箇所だと思います。
BESCAは、導入時も導入後も製品購入者を最大限サポートすることを考えています。マシンもプラグアンドプレイ(コードを差し込めばすぐに使える)、すなわち購入者自身が簡単に設置、運転が可能な様に考えられ製造されています。
日々の掃除も簡単に出来るように考えられて造られています。
なるほど。
まずは、製品購入者はBesca Techシステムのメンバーとなり、そのウェブサイトから購入した製品に関する文章や動画にアクセスが可能になっておりますが、マシン導入に必要なことは、私が製品購入時にお伝えしておりますのでご安心ください。
そこは蒲原さんが対応していただけるので安心ですね。
製品のトラブル時にはトルコのサポートチームが迅速に対応します。実際にあった例としては、モータードライブの基盤の不具合がでたことがありましたが、症状を伝えると「これとこれを試してみて下さい」「次はこうやったらどうなりますか?」とチャットを通して診断していきます。
今の時代ではスマートフォンでリアルタイムに動画も送れるので、この様なやりとりも可能なのでしょうね。それで故障個所を特定し交換パーツが送られてくるのですが、この時のパーツが届くまでの日数は私も驚くほど迅速で3~4日で手元に届きました。
過去にあったマシントラブルはこれくらいで、基本的にBESCA製品はタフで故障が少ないです。
日本市場への架け橋、購入サポート誕生の経緯
BESCA本社と日本のロースターの間に立ち、購入サポートという独自のポジションを確立された経緯を教えていただけますか?
このユニークな立ち位置に至った背景には、きっと興味深いストーリーがあるのではないかと!
私自身、コーヒーが好きで「自分でも焙煎をしてみよう」と、まずは手網からスタートして焙煎を楽しんでおりました。この辺りは他のコーヒー好きな方達と同じだと思います。
その後、ドラムがモーターで回転する焙煎機がほしくなり、手書きの図面を金属加工業者に持ち込んで自作の焙煎機を造りあげ、暫くは満足していたのですが、「業務用の焙煎機を使ったらどんなコーヒーに仕上がるのだろう?」と、どうしても業務用の焙煎機がほしくなりました。
ただ、日本で購入できる焙煎機は非常に高額でとても買える値段の製品がありません。そこで海外製の焙煎機に目を向け個人輸入という形でTOPERの1kg焙煎機を購入しました。
その情熱と行動力、そこまで踏み込むのはなかなかできないです!
この個人輸入で業務用焙煎機を購入したことをブログに書いていたら、私と同じような考えの方が日本全国にいる様子で、いろいろな方が見学に私の自宅に遊びに来てくれました。
その時、静岡にあるインディゴローストワークスの高橋さんからBESCAの話を聞き、カタログを見てBESCAにメールを送り製品の仕様を確認したところ「TOPERを使っている場合じゃない!」と即決で購入を決めました。見たことも触ったこともない製品でしたが、「絶対に素晴らしい製品だ」とピンとくるものがありました。
そのような経緯があったのですね。最初は手網で焙煎を楽しんでいたところから、業務用の焙煎機を求めていく中で、BESCAの素晴らしさに気づき、個人輸入という形で購入したという流れがとても面白いです。
日本全国から色々な方が見学にきてくださり、皆さんの話を聞いているうちに「私と同じように多少のリスクは承知で個人輸入をしたい人は沢山いる。ただ、個人輸入する為の知識と経験がなく、あと一歩が踏み出せないのだ」ということが伝わりました。
私自身が購入したBESCA2kg釜は、BESCA担当者と本当に毎日メールで色々な話をしていて、彼らの製品に対する愛情も理解していたので「BESCA社と日本の購入希望者の間に私が入り、購入のサポートをすればBESCAにとっても日本のコーヒー愛好家にとってもWin-Winで素晴らしいのでは?」と思い、今の購入サポートの位置におります。
BESCAと日本の購入希望者との間に立つことで、双方にとってのWin-Winの関係が築けると感じられたのも、すごく自然な流れだったんですね。
自分でも「コーヒーが本職でもないのに何をやっているのだ、、」とは思います(笑)
実は創業者のエルカンとは会ったこともないですし、契約書すら交わしてもいません。「SCAJでBESCA製品を展示したいから任せる!」と大金を出して展示ブースの代金を支払い、会ったこともない私を信じて任せてくれているので「これは日本人として手を抜く訳にはいかない!」と本業を1週間休んでSCAJに出ておりましたし、サポートにも力が入ります。
正式な代理店になってしまったほうがよいのではないでしょうか?
正式でないことが強みでもあります。そこがBESCA JAPANの面白いところだと思っています。
儲けを考えて製品の紹介をしていないので「この方は他の焙煎機を買ったほうがいいのでは?」と感じたら、素直に他社をお勧めできてしまうので。
ひとりのコーヒー愛好家として本心から「この人にはBESCAが合うな」と思える方にお勧めしたいのです。ここに儲けやメーカーへのしがらみが強く入ると、どうしても「うちの製品を使ってね」といわざるを得なくなります。BESCAとしても、今の日本の販売スタイルで納得してくれています。
日本での購入者が増えるとBESCAに対しての要望も通りやすいので、BESCA仲間が増えることには大賛成です。
BESCAはどんな人に最適?
BESCAはどのような方にお勧めできますか?
国内で販売されている焙煎機は手が出ないが、ご自身で少し頑張る気持ちがある方には最適です。
焙煎機のグリスアップや排気筒の掃除など、自分でやるのは当たり前で「お金は出すから全てのメンテナンスもやってほしい」という方は、他社を購入することをお勧めします。
日本ではまだ知名度が低いと思いますが、素晴らしい製品ですのでBESCA仲間が増えることを願っています。
問い合わせはBESCA JAPANまで。
- Tags