Only Roaster(オンリーロースター)

「正式代理店にならない」からこそ実現する、新しい焙煎機との向き合い方──BESCA

2025.01.07
BESCA

トルコ発の焙煎機メーカーBESCA。「高品質でありながら手の届きやすい価格帯」「焙煎プロセスの細部まで考え抜かれた設計」。これらは、BESCAの製品が持つ特徴のほんの一部だ。今回の対談では、BESCAを深く理解し、その魅力を日本に伝える蒲原豪さんにお話を伺った。

蒲原さんは、代理店ではない。それでも購入したいと願う人々のために、BESCA JAPANを立ち上げ全力でサポートしている。個人輸入の経験から、製品への理解を深め、現場の声をメーカーに届ける。これは、焙煎愛好家としての純粋な情熱から生まれた取り組みである。その独自の視点とメーカーとの信頼関係が、BESCAの日本での存在感を強くしている。

「自分が信じた製品だからこそ、その魅力を正しく伝えたい」。その想いを胸に語ってくれたストーリーには、焙煎機の性能や設計思想を超えた、人と人との繋がりがあった。

BESCAのブランドストーリー

編集部

近年注目を集めているBESCAですが、その魅力を教えていただけますか?

BESCA JAPAN

BESCAは設立以来、世界の一流ブランドと競うことを目標にしてきました。

現在、トルコ国内でBESCAに匹敵する競合企業はなく、技術力と機器の品質において高い評価を得ています。最高品質の製品を提供できる体制を確立しています。

蒲原 豪
蒲原 豪(かもはら たけし)。本職は治療家であるが、趣味としてのコーヒー焙煎歴は30年ほどになる。クラシカルな焙煎から最近のスタイルまで柔軟に受け止め、焙煎を楽しむことだけを考える異端児。あるきっかけでBESCAを手にするが、コーヒーを愛するBESCAの姿勢に共感し日本での購入アドバイザーとしてBESCA JAPANを立ち上げ、日本の購入希望者のサポートにあたる。コーヒー業が本職でないからこその強みもある。
編集部

BESCAが焙煎機を作り始めた背景や目的、創業の経緯などお聞きしたいです。

BESCA JAPAN

エルカン・アイディン(Erkan Aydin)は、焙煎機市場で15年の経験を積んだ後、BESCAブランドを立ち上げました。市場が少数の有名メーカーに独占され、高価格な焙煎機しか選択肢がない状況を変えるためです。

創業から10年、「低価格で高品質」を実現し、焙煎機=高価格という固定観念を打ち破ることに成功しています。

特長と設計思想

編集部

そのアプローチは、スペシャルティコーヒー業界にとって大きな変化をもたらしたといえますね!

BESCA製品における特別な素材や技術について、また、他のメーカーと比較して際立っている点やユニークな設計思想についてもあればお聞きしたいです。

BESCA JAPAN

すべてのBESCA製品には、点火前にガスと空気を適切な割合で混合するプレミックスバーナーが採用されています。

先に空気とガスを混合するため、本体を密閉にできるので断熱という面でも有利になります。このバーナーは、ドラム下の燃焼室で作動するため、焙煎中の対流速度は従来のバーナーシステムよりもかなり高くなっています。

編集部

ガスと空気を混合する仕組みで断熱性を高めている、ユニークですね。

BESCA JAPAN

あとは、焙煎の安定性を最大限に高める為に、ロースター本体に高い断熱性をもたせて、焙煎プロセスが外気の影響を最小限に抑える様に設計されております。

その結果、フレーバーを引き出すために排気を強くした焙煎でも、釜の中の温度低下を起こさず焼き上げることも可能になっています。

編集部

焙煎中の対流速度を高めたり、外気の影響を最小限に抑えたりする工夫で、フレーバーの引き出しや安定した焙煎を可能にするわけですね。

BESCA JAPAN

あとはモーターが独立しているので、焙煎と冷却を同時に行うことができます。

BESCA
本体に高い断熱性をもたせるため、最小限の通気グリルはあるが、そこからバーナーを確認することはできない
編集部

焙煎機のラインナップについて教えていただけますか?

BESCA JAPAN

ラインナップは、500g、1kg、3kg、6kg、10kg、15kgとあり、全てのモデルでマニュアルかオートが選択できます。

編集部

1kg、3kg、6kg、10kgは需要がありそうなサイズで魅力的ですね。

BESCA JAPAN

大きなところでは、6kg釜までは単相100vで稼働可能なのも魅力のひとつです。家庭用のコンセントで動かせます!大きな変圧器が組み込まれてまして、そこで200Vに昇圧してから本体を動かしてます。100Vで動く6kg釜は、他になかなかないと思います。

編集部

家庭用のコンセントでも動かせるということですね!

BESCA JAPAN

本体カラーもRALカラーチャートから選択できて、ウッドパーツも無料で変更可能なので、好みのマシンに仕上げることができます!

BESCA
編集部

自分好みの焙煎機にカスタムできるのは嬉しいですね!

BESCA JAPAN

2024年、BESCAは「Gen II(第2世代)」として焙煎機を大幅に進化させました。

断熱性がさらに向上し、ドラム内の熱風の流れをより正確に制御できるよう設計を見直しました。「Gen II」は2024年からリリースされた新シリーズです。

編集部

断熱性や熱風の流れが改良されたのは。焙煎の精度が上がりそう。

BESCA JAPAN

この2年間で、特にソフトウェア分野で大きな進化を遂げました。

焙煎機の性能と同様に、生産工程の一貫性が重要視される中、BESCAはクロップスターとの互換性を高める独自のソフトウェアを開発しました。さらに、焙煎の第一人者やトレーナーと連携して改良を続けています。

BESCA

トレンドと環境への対応

編集部

焙煎業界の現在のトレンドや変化には、どのように対応していますか?

最新の技術や市場のニーズ、環境への配慮などあれば教えてください。

BESCA JAPAN

BESCAはトレンドや最新技術に敏感に対応し、技術チームは常に新しい技術を取り入れています。

私も毎日BESCAチームとチャットでやり取りをしています。時差の関係で深夜まで会話が続くこともありますが、創業者のエルカンも毎日のチャットに参加し、改良を続けています。

編集部

創業者も参加されるんですか(笑)

BESCA JAPAN

そうなんです(笑)

このチャットで実際に使用しているロースターさんの声を伝え、改善・改良もしてくれています。

実際に日本からは、塗装の品質向上や温度センサーの位置変更、卓上タイプの500g釜と1kg釜のクーリング排気に排気管を繋げる様に設計の見直しなどを要求しましたが、柔軟に対応してくれました。

編集部

具体的な提案が反映されるんですね。実際に使う人の視点が活きているのは素晴らしいです!

BESCA JAPAN

環境問題への取り組みとして、高性能なメタルニットバーナーを採用しています。これにより、省エネ効果だけでなく、窒素酸化物や一酸化炭素などの有害物質の排出を大幅に抑えています。コストはかかりますが、焙煎において重要な部分のため妥協しません。

他には、水素で動く焙煎機の開発も視野に入れておりまして、ドイツの専門業者と連携を進めています。これが実現すればとても面白いことになりそうです!

編集部

トルコには他に焙煎機メーカーがあるのですか?

BESCA JAPAN

代表的なところですと、TOPERKUBANが知られています。ただ、多くのブランドが価格だけで競争しており、製品の開発には力を注いでいるのか疑問を感じます。

BESCAとしての目標は、品質の面でトルコ内の企業と差別化を図りながら、価格の面でヨーロッパやアメリカの競合他社に対して有利な立場に立つことです。

「低価格でありながら高品質」このことを一番に考え製品開発に取り組んでいます。

編集部

確かに価格だけでなく、品質や技術開発への投資も重要ですよね。BESCAがそうした姿勢で開発を進めている点は、他のメーカーとの差別化になりますね。

BESCA JAPAN

私はコントロールパネル内のパーツを一体型にしてコスト削減を提案しましたが、技術チームから「ガスシステムと高電力装置は一緒にすべきでない」と返答されました。

BESCAはコストよりも「良いものを作りたい」という強い意志を持っていることが伝わってきました。

BESCA
本体下のスペース。ニューモデルの「Gen II」になり、内部のデザインはかなり改良された

購入サポートとメンテナンス体制

編集部

大きなところとしては、BESCAには代理店がないということですが。

BESCA製品の導入後のサポート体制やメンテナンスはどうなっていますか?代理店がない分、どのようなサポートがあるのか気になります。

BESCA JAPAN

BESCAは、購入者が簡単に設置・運転できるよう、マシンをプラグアンドプレイ設計にしています。製品購入者はBesca Techシステムのメンバーになり、専用ウェブサイトでマシンに関する文章や動画を確認できます。導入時に必要な情報は、購入時に私からお伝えしているので安心です。

編集部

そこは蒲原さんが対応していただけるので安心ですね。

BESCA JAPAN

製品トラブルの際は、トルコのサポートチームが迅速に対応します。

実際にあった例としては、モータードライブの基盤に不具合が出た際、チャットを通じて「これを試してみてください」「次はどうなりますか?」と診断を進め、故障個所を特定しました。

スマートフォンで動画を送れる時代だからこそ、リアルタイムでのやりとりが可能なので、交換パーツも3~4日で手元に届きました。これまでのトラブルはこれくらいで、BESCA製品はタフで故障が少ないのが特徴です。

日本市場への挑戦とサポートの誕生

編集部

BESCA本社と日本のロースターの間に立ち、購入サポートという独自のポジションを確立された経緯を教えていただけますか?

このユニークな立ち位置に至った背景には、きっと興味深いストーリーがあるのではないかと!

BESCA JAPAN

コーヒーが好きで、最初は手網で焙煎を楽しんでいました。 次第にドラムが回転する焙煎機が欲しくなり、手書きの図面を金属加工業者に持ち込んで自作の焙煎機を作りました。しばらく満足していましたが、「業務用焙煎機で焙煎するとどうなるのだろう?」と興味が湧き、どうしても業務用焙煎機が欲しくなりました。

ただ、日本で購入できる焙煎機は非常に高額だったため、海外製に目を向け、個人輸入でTOPERの1kg焙煎機を購入しました。

編集部

その情熱と行動力、そこまで踏み込むのはなかなかできないです!

BESCA JAPAN

個人輸入で業務用焙煎機を購入したことをブログに書いたところ、全国から多くの方が見学に来てくれました。そこで、静岡のインディゴローストワークスの高橋さんからBESCAを知り、カタログを見て即決で購入を決めました。実際に見たことも触ったこともなかったですが、直感で「素晴らしい製品だ」と感じました。

編集部

そのような経緯があったのですね。最初は手網で焙煎を楽しんでいたところから、業務用の焙煎機を求めていく中で、BESCAの素晴らしさに気づき、個人輸入という形で購入したという流れがとても面白いです。

BESCA JAPAN

日本全国から見学に来る方々の話を聞く中で、多くの人が個人輸入に興味を持ちながらも、知識や経験の不足で一歩踏み出せないことに気付きました。

私自身、BESCA 2kg釜を購入する際に担当者と毎日のようにやり取りし、彼らの製品への愛情とこだわりを深く理解しました。そこで、「私が日本の購入希望者とBESCA社の間に立つことで、双方にとってWin-Winの関係を築けるのではないか」と考え、購入サポートを始めることにしました。

編集部

BESCAと日本の購入希望者との間に立つことで、双方にとってのWin-Winの関係が築けると感じられたのも、すごく自然な流れだったんですね。

BESCA JAPAN

自分でも「コーヒーが本職でもないのに何をやっているのだ、、」とは思います(笑)

実は創業者のエルカンとは会ったこともないですし、契約書すら交わしてもいません。「SCAJでBESCA製品を展示したいから任せる!」と大金を出して展示ブースの代金を支払い、会ったこともない私を信じて任せてくれているので「これは日本人として手を抜く訳にはいかない!」と本業を1週間休んでSCAJに出ておりましたし、サポートにも力が入ります。

BESCA
編集部

正式な代理店になってしまったほうがよいのではないでしょうか?

BESCA JAPAN

正式でないことが強みでもあります。そこがBESCA JAPANの面白いところだと思っています。

儲けを考えて製品の紹介をしていないので「この方は他の焙煎機を買ったほうがいいのでは?」と感じたら、素直に他社をお勧めできてしまうので。

ひとりのコーヒー愛好家として本心から「この人にはBESCAが合うな」と思える方にお勧めしたいのです。ここに儲けやメーカーへのしがらみが強く入ると、どうしても「うちの製品を使ってね」といわざるを得なくなります。BESCAとしても、今の日本の販売スタイルで納得してくれています。

日本での購入者が増えるとBESCAに対しての要望も通りやすいので、BESCA仲間が増えることには大賛成です。

どのようなロースターに最適か

編集部

BESCAはどのような方にお勧めできますか?

BESCA JAPAN

国内で販売されている焙煎機は手が出ないが、ご自身で少し頑張る気持ちがある方には最適です。

焙煎機のグリスアップや排気筒の掃除など、自分でやるのは当たり前で「お金は出すから全てのメンテナンスもやってほしい」という方は、他社を購入することをお勧めします。

日本ではまだ知名度が低いと思いますが、素晴らしい製品ですのでBESCA仲間が増えることを願っています。

問い合わせはBESCA JAPANまで。

Photos & Interview & Text & Editor: 疋田 正志
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