守破離という哲学から生まれる、生産者とロースターの信頼──SYU・HA・RI

SYU・HA・RIの辻本貴弘さんの根底にあるのは「守破離」という考え方だ。直感で現地に飛び込み、農園での仕事やカッピング、ロースティングを学びながら、生産者との信頼関係を一つひとつ築いてきた。
その姿勢は、単に良いコーヒーを見つけるためだけでなく、生産者の努力や人柄を理解し、長く深い関係を育むことに重きを置いている。信頼とは自然に生まれるものではなく、時間と誠実な行動の積み重ね。生産者の環境や管理状況を尊重し、ロースターともプロフェッショナルとして向き合うことで、最高のコーヒーを届けるための関係性が生まれる。
SYU・HA・RIが目指すのは、まさにこの「守破離」という哲学が導く、揺るぎない信頼のかたちである。
「守破離」という言葉から始まった、SYU・HA・RIの原点
なぜSYU・HA・RIという言葉を選んだのですか?
SYU・HA・RI〈スターバックス〉で働いていた頃に、採用してくれた店長から教わった言葉なんです。僕にとってその方は今でも尊敬する人で、ベンチマークのような存在です。多才で、人望が厚くて、とにかく面白い人で、「こういう人になりたい」と初めて思った方でした。
その店長が教えてくれたのが「守破離」という言葉でした。当時、その店長の真似ばかりしていたので、「いつか自分もこうやって成長していきたい」と感じたのを覚えています。
この言葉をどこかで使いたいとずっと思っていて。響きも良いし、シンプルで覚えやすい!

スタートは〈スターバックス〉だったんですね。
SYU・HA・RI一番最初は〈サンマルクカフェ〉なんですけど(笑)
〈スターバックス〉には5年半ほど勤めてました。2年くらいで店長から「コーヒーを勉強してみたら?」って言われて。そこから勉強してみたら面白くなってきて。
そのうち、素材を仕入れるバイヤーって仕事がかっこいいなと思うようになって。でも、自分は学歴もないし、商社マンってみんな大卒だし、無理やなと。それやったら、自分で立ち上げればいいんじゃないか、そんな考えがポンと浮かんだんですよ。
当時はまだ情報も少なくて、自分でやると言っても、まわりからは絶対無理って言われていましたね。
今はインポーターも増えてきてますが、その当時自分で立ち上げるという発想はなかなかないですよね。
SYU・HA・RIそうですね。なんか無理とか嫌いと言われると、好きになるタイプなんで、じゃあやってやろうと(笑)。
やってみないとわからないっていうのは、自分の人生の家訓なんで。
ゼロから始まった、グアテマラでの原体験
現地ではどのように生産者と関わり、信頼関係を築いているのですか?
SYU・HA・RI飲みニケーション、お酒です。僕めっちゃ弱いんですよ。2、3杯ぐらいまではいけるんですけど、それ以降は結構バグるんで(笑)。
現地の人は、おもてなしをした時に、ちゃんと乗ってくれる人のほうが絶対好きなんですよ。気取った感じでいると、「何考えてんのこいつ」みたいな感じになるから。シンプルに嬉しいとか楽しいを表現してあげた方が喜ぶので。

そういう時はどこで飲むんですか?
SYU・HA・RI農園とか、農園主の家に招かれたりとか、そういうときに料理をバクバク食べるやつとか、そういう人の方が印象に残るし好かれる。覚えてもらうってことはすごい大事で。
この業界では、僕ら若いですからね。日本でインポーターするのは大きい企業でないと難しいって生産者の方々も理解されてるんです。
立ち上げた時は33歳くらいで、1人でふらっと産地に行って、こんな金髪のやつがグアテマラ訛りのスペイン語を喋りながら、わりかし買うって、ちゃんと。だから最初は結構びっくりされました。
そもそもグアテマラにはインポーターになろうと思って行ったんですか?
SYU・HA・RIその時は、すでに明確にインポーターになりたいなと思ってました。でも現実的じゃない、夢だったんで。キャッシュとかどれぐらいかかる、みたいな。その当時は未知数でした。
インポーターとしてのスタートはグアテマラなんですか?
SYU・HA・RIグアテマラがスタートで、その間にエルサルバドルとかホンジュラスも行ったりしましたけど、基本はグアテマラにいました。
グアテマラ行ったのも直感やったんですけどね。朝起きたらグアテマラ行こうってなって、ほんとにそういう感じなんですよ。
よく理由を聞かれるんですけど答えれないんすよ。生産者にも同じことをよく聞かれるんですよ。直感です!

すごいですね!
SYU・HA・RI髪を剃って坊主にして、とりあえずもう全部剃りました(笑)。一旦、人生をゼロにしたかった。だからコーヒーやってない人の体で行きました。
いらん知識が入ってたんで、本の情報みたいな。もう彼らの言うことを鵜呑みにしていこうと思いました。
それで生産者からの信頼は得られたんですか?
SYU・HA・RI本当いろんな人が助けてくれて。1ヶ月ぐらい経って、同じホームステイ先の日本人と仲良くなって。僕のこと話してくれたら、1週間後ぐらいにお茶しましょうってなって。その時に、次に会う時までにグアテマラで成し遂げたいことを箇条書きにしてくださいって言われて、色々書いたんですよ。「農園に行きたい、農園で働きたい、カッピング学びたい、ロースティングを学びたい」とか。
会った時にそれ見せたら、「私、これとこれとこれ叶えられるんで行きましょう」って言われて、そのまま車に乗せられて連れてかれたのが、〈カステルカフェ〉っていう、僕が働かしてもらうことになるカフェで。その方が、スペイン語もできない僕を、「いいよ、ここで働きながらスペイン語学べばいいやん」みたいな言ってくれて。そこで始まったんですよ。
その方は、いろんな人と知り合いが多くて、有名な農園主がふらっとカフェに現れたり。そこで1年半ぐらい働かしてもらって。縁だけはめちゃくちゃ人は恵まれてるんで、自分もそういう人になりたいと思いました。

守破離の精神を体現する生産者
産地で「この生産者は何か違う」と感じた瞬間はありますか?
SYU・HA・RIもうダントツ、アストリッド・メディナ(Astrid Medina)。言葉の厚みが違いますね。みんな好きになる。コロンビアのCOE覇者で有名女性農家さんです。今はそのサプライヤーと僕らはオフィシャルでやらせてもらってます。
初めてその農園に行った時も、従業員を大切にしてるんで。僕らはピッカーさんと同じ部屋で寝泊まりしたんですが、それが全く嫌じゃなかった。清潔ですし。他の農園って、ピッカーさんの部屋があって、お客様用にはすごい綺麗な部屋が別にあるんすけど。
そこに行ったら全員アストリッド・メディナからコーヒー買いたいってなるくらい人格者であり、コーヒーに対してのパッションを持ってて、素晴らしい方ですね。
クオリティもすごくて、COE1位を取っちゃうと、高飛車になって値段を結構ガンガン上げる人もいるんですよ。そういうこともなく、クオリティと価格のバランスも取れてて、そういう生産者ってなかなか出会わないんで。ほんと全員がファンになって帰ってきたんで、そういうのが素晴らしいなって。
すごい方なんですね。まさかこの質問に秒で名前が出てくるとは思いませんでした!
SYU・HA・RI今年行った農園っていうのもあって、印象に残ってるとこもあるんですけど。トリマ県の経験は本当によかったですね!行くまでが結構大変で、長時間の車移動に加えてインフラも結構悪いので。

長期的信頼と毎日飲みたいコーヒーの価値
インポーターとしてロースターとどう向き合いたいと考えていますか?
SYU・HA・RIよくお客さんにも話すんですけど、僕らは長い付き合いをしたいので、関係で言えば夫婦みたいな。お互いにリスペクトしていいものを作り上げていきたい。
信頼関係を持って、長いスパンで買い続けてくれる人であって、なおかつSYU・HA・RIのコンセプト、自分たちが求めてるワードっていうものを理解してくれるお客さんと、お互いになあなあではなく、プロフェッショナル同士として向き合っていきたいなと思ってます。そこは結構お客さんを選んでる方だと思います。
最近は結構間口は広いんですけど、いい豆が届くかって言われたらそうじゃないって感じですかね。いい豆を送る人をある程度僕らの中で選んじゃってるんで、それは信頼関係の長さと、SYU・HA・RIの豆をこの人が焼いたらどうなるのか、みたいなワクワク感を感じさせてくれるロースター。僕らからしたらそういう人たちに焼いてほしいんで、そういうロースターさんだといい豆が行きますね。そういう関係性を築ける人に、のし上がってきてほしいですね。
単なる取引ではなく、互いを高め合う関係を築くような、そんな哲学があるんですね。
生豆の品質をどんな観点で伝えていきたいですか?
SYU・HA・RI一言でいうと、毎日飲みたくなるコーヒーです。それだけで、いいコーヒーだと思ってるんで。昨今の流行りのコーヒーはインテンシティ重視で、強ければいいみたいな、ああいうのは全く好きじゃないです。繊細で奥ゆかしく凛とした、そういうコーヒーが好きですかね。
点数とかじゃないんですよね。85点でも全然いいコーヒーあるんで。基本的には86点のコーヒーが多いんですけど、僕は85点でも「このコーヒーいいな、毎日飲みたいな」と思えば、全然買いますね。
普段飲むコーヒーも、デイリーなものが多いですか?イノベーティブなものも飲んだりしますか?
SYU・HA・RI経験としてたまに飲みますけど、飲まないですね。
味を強くするために、発酵を強めてるものには、魅力を感じません。85点や86点でも、すごくきれいなコーヒーは、作る過程で生産者さんはすごく手間も時間もかかってるんで。その過程が一つでも間違ったら、コーヒーってできないんで。
そういうコーヒーを評価されないことには、いいデイリーコーヒーが減ってしまう。その原因を作ってるのはロースターや商社、キャッチーなものを追うバイヤーも含めた業界全体です。
手間をかけて丁寧に作られた、きれいなウォッシュドコーヒーを正当に評価できるようであり続けたいと思ってます。
発酵を味づくりに利用したコーヒーは今人気ですからね。
SYU・HA・RI売るとなると、そういう人に売りやすいコーヒーを自然と求めちゃいやすくなる。でも、実際それがどうやって作られてるかを、あんまり知らないでやってる人もすごく多い。
自分たちがなぜウォッシュドを伝えたいかというと、それだけ手が込んでて、本来のコーヒーってこういう味だよねっていうのが感じられるからだと思ってて。それを辞めちゃったら、ほんとになくなっちゃうものだと思うんで。
だから綺麗でクラシックなものを比較的買ってる方だと思いますね。
生産者の方がウォッシュドに対して持っているこだわりや哲学で、印象に残っているものはありますか?
SYU・HA・RIコロンビアの仲良い農家さんで、今もう生産されていない「マジョリカ」という発酵槽のセラミック素材が印象に残っていますね!
「マジョリカ」から違う素材に変えた農家さんのコーヒーのウォッシュドが、2点ほどカッピングスコアが下がったので、発酵槽タンクの素材もすごい大事だなと!
ウォッシュドの価値をもっと伝えるためには、何が必要だと思いますか?
SYU・HA・RIウォッシュドの価値をもっと伝えるためには、消費者の方々にウォッシュドの魅力を伝えるロースターさんを増やすことかなと。それがSYU・HA・RIの使命であり、今やるべきことだと思っています。

デイリーコーヒーにこそ、正当な価値を
スペシャルティコーヒーの価値が多様化する中で、今どんな課題を感じていますか?
SYU・HA・RIデイリーコーヒーと、インテンシティコーヒーの価格の差異があるのが、あんまりよくわかんないです。なんでちょっとやっただけで高いのかみたいな。
デイリーコーヒーで最大限払える額を払って、みんなでその農家さんを支えていくっていうのが、多様性を受け入れなきゃいけないと思うんですけど、僕らはそっちを使命として今やってる感じです。
特にコロンビアなんかは多いですよね。
SYU・HA・RIコロンビアは意味がわかんないですね、真似事なんで。パッとみて売れてるから、うちもやりたいみたいな。そういう感じでやり始めたとこも多いと思うんで。
コロンビアにイノベーティブな豆が多いのは、他の国と比べて加工するためのハードルが低いんですか?
SYU・HA・RI彼らは収穫から乾燥、パーチメントまで自分たちで仕上げちゃうんです。農園単位で一定の管理ができるっていうので、わりかし投資はしやすいと思います。
他の国だとチェリーだけ売る人とかもいるんで。コロンビアにもいるんですけど。あとコロンビアはどんな豆でも国が全部最低の生活保証してるんで、買い取ってくれるんです。実験的に作って失敗しても買い取ってもらえるっていうのはでかいと思いますね。実験とかそういうチャレンジがしやすいオリジンなんだろうなっていうのは思うんですけどね。
今のトレンドでもありますよね。
SYU・HA・RIぜひ、SYU・HA・RIのFairFieldTradingっていうコロンビアのエクスポーターですけど、このアレハンドロ代表は、みんなにもっと知られるべき稀有な存在なんで。
なぜなら,彼はウォッシュドのみがコロンビアのコーヒーという信念を抱えている唯一無二のエクスポーターなので!

霧島でお米づくりを、農業から見えるコーヒーの本質
今後、SYU・HA・RIとして挑戦したいこと、目指してることを教えてください。
SYU・HA・RI次のステップとして、鹿児島の霧島で農園を始めるんです。コーヒーじゃないですけど、農業をずっとしたくて。農作物を使ってる会社なので、自分たちもそういうものを作りたいっていうのがあって。
生豆のインポーターとも親和性のあるものをしたかったんで。まずは日本の毎日食べるデイリーってなんだと思ったらお米やと思ったので。コーヒーかすを肥料に使って、循環的にコーヒーにも恩返しできたらいいなと。
みんなで休みの時とかに稲刈りをしたり、農業の大変さとか自然との関わりを体感して、コーヒー農家がいかに大変かっていうのも知いれる機会だと思うので、そういう風にできたらいいかな。あまりビジネスとは考えてないです。
なるほど。農業の経験をコーヒーと結びつける考え方なんですね。
SYU・HA・RIうちはできる限りまかないを出してるんで、その時のお米とかもそれで賄えたらいいかなと思ってるんで。本当に自分で作ったものを食べれるっていう、そういうのもいいなと。うまいとかも。チハニがわかんないっていうね。
舌を扱う商売なので、いいものを食べてほしいって思いもあるんで。そんなに出口を見てるわけじゃなくて、とにかく口をめでるっていうのはやりたいっていうのでやり始めたって感じで。

霧島の農園では、どんなことを大事にしていきたいですか?
SYU・HA・RI焙煎や抽出のプロセスも大事だけど、そもそも健康な土や生産環境がなければ、いいチェリーは生まれない。だからこそ、今年のクオリティだけで判断するんじゃなくて、農園の管理状態や生産者の姿勢、人間性まで見て関係を築きたいと思っています。
今年の出来が少し落ちても、「この環境とこの人なら、来年はもっと良くなる」と信じられる関係を大切にしたい。そのためにも、農業はめちゃくちゃ大事な部分。霧島で始める農園も、その延長線上にあります。
信頼関係を軸にした取引の考え方なんですね。
SYU・HA・RIこういうのを理解してない人は、いろんな商社を扱うんじゃないかと思ってます。つまみ食いじゃないですけど。それぞれにあるいいものだけつまんでいくみたいな。それってほんと継続性ない。
僕らは、取引するロースターに「全部SYU・HA・RIで」とは言わないですけど、5割ぐらいでSYU・HA・RIにフォーカスしてもらえると、こっちも応援したいんで。そうすると、どのロットを誰に届けるかも明確になって、お互いに信頼でつながれる。推し活じゃないですけど、ロースターが“推しファーマー”をSYU・HA・RIの中で見つけるような、そういうのが最終形態かもしれない。次の理想の形のインポーターやと思ってます。
それが積み重なれば、生産者も「このロースターが毎年この豆を買ってくれる」と安心できるし、持続的な取引ができる。 毎年いい豆だけを追いかけていると、最終的には資金力勝負になってしまう。マイクロインポーターとして僕らが向き合いたいのは、そうした“目に見えない信頼”の部分なんです。

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