開発のきっかけは「蒸らしもせずできるだけ簡単においしいコーヒーを淹れたい」という思いつきだった──SIMPLIFY the Brewer
「コーヒーを淹れる時の円を描くようなケトルの動きは、初心者にとって難しいだけでなく、プロであっても完全に同じ動きを繰り返すことは困難です」。それらを取り省き、真っ直ぐに30秒お湯を注ぐだけで、最高のコーヒーが抽出できるドリッパーSIMPLIFY the Brewer
その抽出のシンプルさが、オペレーション的に優れていることに加え、クリアな味わいで美味しいと、たちまち全国のコーヒーショップで使われるようになった。
開発者は、コーヒー器具の輸入販売を行うBATHTUB COFFEE代表を務める伊藤遼(通称ジョン)さん。完成まで「デザインをしては試作し、試作をしては抽出をし、抽出をしては修正をする」ということの繰り返しだった。
ジョンさん1人で開発されたと聞きましたが、まずはその経緯を教えてください。
自社で扱ってるLiLi Coffee Accessoriesドリッパーが、蒸らしなしの一投でいい感じに淹れられたんです。形状が1930年代のメリタのドリッパーとそっくりな作りで。
そこからさらに蒸らしをなくすことで、より再現性をあげるわけですね。
そうですね。ただ蒸らしをなくすレシピを考えたはいいものの、市販のドリッパーで試してもなかなか満足いく結果に辿り着かなくて。
そんな時、興味本位で3Dプリンターを購入していたので、せっかくならそれを使って作ってみようと。
すごい行動力ですね!
最初は製品を作って売りだそうと考えていたわけではなく、やっていく中でそれなりにいいものができてきて、じゃあこれを製品化してみるか、という流れでクラウドファンディングをやらせてもらいました。
設計は全てジョンさんがされたのでしょうか。
そうですね。Webのアプリを使って一から設計を勉強しつつ始めました。
SIMPLIFYを作るために、そこから勉強されたわけですね。
実現したいレシピというのがあったのと、たまたま物作りというところに興味が出始めてた時期で。そしてできる環境があった、というのが偶然重なって、作り出したというとこですね。
素材にも拘られたのですか。
TROGAMID (トロガミド)というナイロンの一種です。耐熱性があって壊れにくいものを選びました。
壊れにくい素材を探して、工場の方と話をする中で見つけてもらった素材です。かなり丈夫で弾力があるので、ぐいぐい曲げてもらっても大丈夫なんです。
柔軟で耐久性が高い、そんな素材があるのですね!
余談ではありますが、透明な樹脂で作ったら、横から抽出の様子を見られておもしろいと思っていたのですが、いざお湯を入れてみたら曇って見えませんでした(笑)
そうなりますよね(笑)
ペーパーフィルターはウェーブドリッパー専用ですか?
ペーパーもオリジナルにする案はあったのですが。
そもそもペーパーは消耗品なので、ある程度のクオリティは必要ですけど、安いに越したことはないと思っていて。そういう意味で、価格が高かったり手に入りづらいオリジナルではなく、比較的流通してるものを利用することにしました。
ドリッパーの穴も大きいですね!
直径40mmというかなり大きな穴が空いています。 ここまで大きなものは、他ではなかなか見ないかもしれません。
穴が大きいということで、抽出には何か影響がありますか?例えば、コーヒーが落ちる速度は他のドリッパーと比べたら早いのでしょうか?
早いです。
ペーパーフィルター自体にも、ある程度水を保持する能力があるので、全く貯まらないというわけにはいかなかったのですが、落ちる速度を早くすることで、より抽出を促進させてあげるというのは最初から考えていました。
SIMPLIFYの基本レシピはありますか?
細挽きにした15gの粉に対して、230ccのお湯を注ぐ。蒸らしをせずに30秒かけて一投で注ぎ、あとは1分半から2分くらいを目安に落ち切るのを待つだけです。
注ぐ時になにか気にした方がいい点はありますか?
ケトルから注ぐお湯にある程度の勢いがあったほうがうまくいきやすいです。お湯の勢いでドリッパーの中を撹拌させてあげることは大事かな、と。
逆に、均等に優しく注いであげると、お湯が粉に乗ってしまう感じになってしまい、うまくいかない印象があります。とはいえ、出したい味によってはそれもありだと思います。
推奨する湯温はありますか?
僕は基本的には95°C。極深煎りは90°Cくらいまで下げてやってます。
比較的落ち切るのが早いので、高い温度でもそんなに雑味は抽出されません。また、細挽きにすることで相対的に微粉の量が減るので、過抽出による雑味みたいなものも出づらくなっています。
水出しもできるのでしょうか?
はい、できます。
お湯と比べたら抽出能力が上がらないので、水出しの時は蒸らしをします。
20gの粉に対して200ccを1分で注ぎきり、3分くらいでできあがり。
ジョンさんの、今後の展望があれば教えてください。
まだまだやってみたいものはあるので、それらを作っていけたらとは思っています。良くも悪くも今はすべてを1人でやってるので、人的にも金銭的にもリソースが多いわけではないのですが。
ここ数年コーヒー業界は、器具や豆の流行の移り変わりが非常に早い気がしています。そんな流れの部分も含めて、諸々噛み合ったおもしろいものが作れたら、また製品として出したいなと思っています。
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