日常も競技会も楽しみ尽くす、味覚と焙煎の哲学——畠山大輝

味覚の探求を、日常の一杯から競技会の舞台まで追い続けるBespoke Coffee Roasters畠山大輝さん。抽出と焙煎、二つの視点から取り組み、独自のスタイルを築いている。
コーヒーの味わいは、五味や香りだけでなく、口当たりや質感までも含めた複合的な体験だという。豆の選び方やブレンドの哲学、日々の楽しみを原動力にする姿勢は、畠山さんならではのスタイルといえる。
1ST CRACK COFFEE CHALLENGE企画による本対談では、独自の味づくり、焙煎への取り組み、そして日々のコーヒー探求の姿勢について語ってもらった。
味覚の捉え方と日常の感覚
競技会や日々の抽出で、美味しさをどう判断するかはとても繊細なものだと思います。畠山さんにとって、味覚をとる感覚はどういうものなのでしょうか?
畠山大輝なんですかね、すごく複合的ですよね、味って。
舌に当たる、味蕾で感じる酸味とか甘さとか、いわゆる五味みたいなものですよね。五味ももちろん感じるんですけど、それにプラスして香りの成分もすごく鼻から抜けていくじゃないですか。
なので、香りの成分とその基本的な五味っていうものと、コーヒーで僕が1番すごく大切だなと思ってるのが、質感なんですね。
質感ですか。
畠山大輝テクスチャーみたいな感じですね。その辺を複合的に判断しています。
どこかだけすごく強調して何かを感じ取ろうとするとかではなくて、飲んだ時の印象でテクスチャーはどうか、フレーバーはどうか、そういうのを考えながら味をみています。

それはトレーニングとかではなく、日々の飲んだ感覚から自然とそういうことを蓄えてきたんですか?
畠山大輝僕は食べることも飲むことも好きで、その味わうという行為自体がすごく好きなんです。美味しいものを食べるということが好きなので、味わうというところから先に入っているんです。
その後、勉強していくにつれて行って、味わいの仕方みたいなものがあるっぽいというのに気が付いて。
そこからは少し頭で考えて、初め飲んだ瞬間はこういう味で、口の中にある時はこういう味、飲み込んだ後はこういう味みたいな、そういう頭で考えながら味わうみたいなのは、後から身につけていった感じですね。
コーヒー以外もそういう感覚なんですね。
畠山大輝そうですね、割と何を食べる時も飲むときも、ちゃんと集中して味わうということをやってます。
普段味覚を鍛えるのに、何か意識していることはありますか?
特にこういうものは食べないとか、そういうのはないんですか?
畠山大輝いや、期待している答えではないと思うんですけど、ないんですよ。特にない。強いていうなれば、体調を整えるぐらいですね。
僕の思考の話になっちゃうんですけど、しょっぱすぎたり味が強すぎるものはそもそも好きじゃなくて、薄味が好きですね。
そういうものを自炊して自分で作って食べるので、誰かと会食がある時とか以外はあまり外食はしないです。あとは本当に美味しいもの食べるぞっていう時にちゃんとしたところに食べに行きます。
毎日自炊されてるんですか?
畠山大輝はい、毎日です。やっぱ自炊はいいですね。栄養のバランスもいいし、自分の美味しい味付けにできますし。
元々料理が好きなんですね!
畠山大輝そうですね、元々すごく料理が好きだったのと、あとは外で食べて美味しかったものとかを自分で再現するのがすごく好きで、そういうことをやったりとかしてます。
飲んだり食べたりする時に、必ず集中して食べたり飲んだりするっていうことは結構意識しています。

直火式焙煎機と味作り
直火式の焙煎機を使われていますが、その魅力やこだわりについて教えていただけますか。味作りにどんな影響があると感じていますか?
畠山大輝直火式は焙煎が難しいんですよ。最近流行しているRoRを高く立ち上げ、その後なだらかに下げていくような焙煎は、直火式では非常にやりにくいという印象です。
直火式はドラムに穴が空いていて、そこから熱風が直接豆に当たる仕組みになっています。一般的な半熱風式がドラム自体を熱で温め、その中の空気で焙煎するのに対し、直火式は火の熱が直に豆に当たるのが大きな特徴です。
ドラムの構造の違いが、焙煎のアプローチに大きく影響するんですね。
畠山大輝直火式焙煎機の特徴は、ドラムの質量がめっちゃ軽いので、蓄熱をほとんど使えないことです。その状態ではじめのRoRの高い状態の山を作ろうとすると、めちゃくちゃ高温で投入する必要になり、結果的に豆が焦げやすくなってしまう。なので、そういう流行りの焙煎をやるのは少し難しいなという印象は持ってます。
ただ、レスポンスがその分めちゃくちゃ早いです。ガスを調整すれば、熱がダイレクトにドラム内へ伝わり、直感的な操作がそのまま焙煎に反映される。逆に、他の半熱風の焙煎機とかで焙煎しようとする時は、30秒とかを先読みしながら焙煎するような感じの僕はイメージになるんですよね。
例えば、味わい的にナチュラルだったら直火の方が甘くなるとか、そんなのあったりしますか?
畠山大輝焼き方によるので、あまりこの味が出やすいっていうのはないかもしれないですけど。
ただ、熱が伝わりやすいので、他の焙煎機では通常だんだんガス圧を弱くしてかないとダメだよねとかっていうところを、逆のパターンとかも直火がこう動かせたりするので、そういう意味では、直火式は味づくりに自由度が結構あるなという印象はあります。
もし直火式ではなく、熱風式や半熱風式で焙煎したら、味づくりはどう変わると思いますか?
畠山大輝
競技会で評価される味と日常で求められる味の違い
競技会で評価される味と、日常でお客さんに届けたい味、この両立や違いについてどう考えていますか?
畠山大輝競技会で評価される味っていうのも結構変わってきてる気がして。
競技会で評価される味は、スコアシートの基準によって変わっていきます。例えば、今のブリュワーズカップで評価される味と、僕が2021年の世界大会に出た時とでは求められる方向性がまたちょっと違うんですよね。
競技会の味も時代や大会によって求められる方向性が違うんですね。
畠山大輝一概には言えない部分もありますが、競技会で評価される味というのは、スペシャルティコーヒーなので、業界全体として深煎りはあまり良しとされておらず、SCAのスコアシートでもビターはほとんど評価してない。そういう意味では、競技会で評価されるコーヒーはどうしても浅くなりがちです。
ただ、日常的にお客さんに好まれるコーヒーには、深煎りのものも多く、中煎りくらいを好む方も少なくありません。そういう意味では、豆のクオリティの差もありますが、焙煎度合いの違いも大きな要素だと感じています。僕なりに味わいの住み分けはしてるつもりではあるんですけども。
例えば、浅い焙煎の中でも、そういう競技会と日常のコーヒーと分けて考えたりされますか。
畠山大輝浅煎りの中だったらそんなには変わんないかもしれないです。ただ、豆のクオリティがだいぶ違うので、値段が違うというのはあるかもしれないですね。
数あるスペシャルティコーヒーの中から、豆を仕入れる際の基準や哲学を教えてください。
畠山大輝僕がシングルオリジンとして豆を選ぶ基準と、ブレンドとして選ぶ基準は少し違うんですよね。
まずはシングルオリジンの場合は、バランスの取れていて、フレーバーや酸味がしっかり感じられることを重視しています。さらに意識しているのが豆の均一性です。スクリーンサイズが極端に違ったり水分値にばらつきがあると、焙煎時に火の入り方が揃わず、飲んだときに不均一さが目立ってしまう。そうならないよう、シングルではなるべく揃った状態の豆を選ぶようにしています。
ブレンドとして選ぶのであれば、特徴がはっきりしているやつ。めちゃくちゃフレーバーは強いと、ボディがめちゃくちゃになっちゃうみたいな感じのコーヒーもちょっとブレンドに配合することでいい仕事してくれたりするんですよね。ブレンドでやるんだったら特徴が何か突出してるものを選びがちです。
その時によってちょっとまた違うんですけど、要するに両方買ってますね(笑)
今後挑戦していきたい取り組み
今後挑戦していきたい新しい取り組みやプロジェクトはありますか?
畠山大輝今ちょっと僕の中で、もやもやっとした部分が最近ずっとあったんですけど。
それは、競技会ではあんなに高い豆を使い、あんなに抽出を調整して、3杯のコーヒーをジャッジに提供するところをやってるのに、お店では大してそれをやらないわけじゃないですか。
確かに、競技会では一瞬ですよね。
畠山大輝競技会にせっかく出ていて、おいしいを突き詰めているのであれば、それは日常でも飲めるようにした方がいいのではという風には考えていて。
ちょっとハイエンドなコーヒーとか、そういうものをしっかり提供されるような機会は少し作る必要があるかなと思っております。

これからのバリスタロースターへのメッセージ
これからバリスタロースターを目指す人に、伝えたいメッセージをお願いします。
畠山大輝楽しんだ方がいいですね。業界で活躍されている方の話や先輩の話、そういう型にハマっちゃう人が結構多いのかなと思っています。
もっと自由に、いろんなことを試しながら楽しめばいいのにとは思てって。特にこれからの時代は情報を簡単にキャッチできるので、情報そのものの差は小さくなっていくけど、実際に手を動かして試している人って、まだまだ少ないように感じてて。
実際に自分で色々試してやってみるとか、他の業界でこういうことやってるのはコーヒーに転用できないのかなとか、本当に楽しみ抜いたやつしかもう残れないんじゃないかなって、僕はちょっと思ってて。
なので、すごく楽しむことが重要な気がしています。
畠山さんの抽出動画を見ていると、常に試行錯誤を楽しんでいる姿が伝わってきますね。
畠山大輝僕の場合はもう趣味みたいなところが非常に強くてですね(笑)
本当に自分が楽しくてやってるっていうのがまず第一にあって、だからこそ、他の人から見たら苦行とか努力みたいに見えるものが、自分の中ではそんなに大したことではないというか。
興味で動いてるからで、それ知りたいからやってるだけみたいな感じなので。その動機ってやっぱり強いなっていうのはありますね。
だからこそ続けられるし、結果にもつながっているんですね。
畠山大輝そうですね。
最後の一杯まで美味しく
最後に、畠山さん個人の今後の夢や人生の目標についてお聞かせください。
畠山大輝一応僕のコーヒーの中での最終到着をしたい地点っていうのがあってですね、死ぬ直前のコーヒーが一番うまいっていうのが、僕の最終目標なんですよ。
嫌じゃないですか。死ぬ直前に飲んだやつ。ちょっと過抽出だな。いや、ビターだなとか(笑)
たしかに、そんな最期は嫌ですね(笑)
畠山大輝死にそうなのに生き返りそうじゃないですか。そこまでずっと成長し続けたいっていうのはあるのと。
あと、美味しいコーヒーを飲み続けられるかどうかっていうのが、不安な世の中になってきてるなっていうのは思っていて。焙煎や抽出といった技術の問題ではなく、生豆そのものの状況です。将来的に手に入らなくなってしまうかもしれないし、美味しいコーヒーが一部の力のある人たちだけのものになってしまう可能性もあるじゃないですか。
そうですね、この先のことはわからないですからね。
畠山大輝死ぬ直前まで美味しいコーヒーを飲み続けるには、さまざまな取り組みが必要だと感じています。
生豆のこと、焙煎や抽出の技術のこと、自分自身の力を高めること。そして、関係性を築くことも。将来的に美味しいコーヒーを飲めなくなるかもしれないと本気で危惧していて、その辺の動きはしていかないといけないなとは思っています。
あとは、コーヒー以外の世界も興味があって。お菓子とか料理とか。
おお、コーヒー以外にも目を向けてるんですね!
畠山大輝僕がコーヒーを始めたのは30歳くらいの頃で、何もわからないまま、とりあえずフジローヤルの直火の焙煎機をヤフオクで買ってみたんですけど。案の定、全然うまく焼けなくて(笑)
その時の感覚って「コーヒーを分かってからやろう」とは思ってなかったはずなんですよね。とにかくやっちゃえ、という感覚だったんで。
今コーヒーの世界で少しずつ実績を積ませてもらえるようになって、ありがたいんですが、振り返ると、他の業界に対しては尻込みしている自分がいることに気がついたんですよね。あれ、もともとそんな性格じゃなかったはずなのに。
だから最近は、他の業界のことにもやろうかなって思ったりしています。
他のことですか!
畠山大輝はい、なんかできそうじゃないですか(笑)
決して自信があるとかじゃなくて、コーヒーでもできたから。多分、これ言うとすごい語弊になるかもしれないんですけど、多分なんですけど、どの業界でも本気でやってる人って一握りだと思うんですよ。他のことも本気でやったら割といい線まで行くんじゃないかっていう。
なので、自分の興味あることはどんどんやってったらいいな、という風に思います。

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