Only Roaster(オンリーロースター)

バリスタチャンピオンが伝えていきたい、本当の想い──石谷貴之×深山晋作

2021.07.20
石谷貴之×深山晋作

Barista Map Coffee Roasters初のイベントをきっかけに、石谷貴之さんと深山晋作さんの特別な対談が実現した。バリスタの役割について語る二人の対話には、競技者としての経験と、日々の接客に込められた想いが詰まっている。

「バリスタは技術だけではなく、サービスが重要なんです」と語るのは石谷さん。見た目や味のクオリティを追求するだけでなく、心地よい接客で人々を魅了するのがトップバリスタの条件だという。その接客に感動し、同じバリスタが淹れるコーヒーを求めて通い続けるファンも少なくないだろう。

Japan Barista Championshipで2度の優勝を果たし、多くの大会で審査員を務める石谷貴之さんと、Australian Latte Art Championships 2018で日本人初の優勝を成し遂げた深山晋作さん。メルボルンのSt.Aliでの9年間の経験や大会の裏話を交えながら、バリスタとして伝えたい「本当の想い」を深く掘り下げる内容となっている。

目の前で作って出すということに付加価値がある

石谷 貴之

今はどこに行っても品質のいいコーヒーがあるし、いいマシンもあるから誰が淹れても美味しくなっちゃうんですよね。

バリスタはサービスが大事なんじゃないかなと思っているんです。最後は対面で人に淹れるというのが一番大事なんじゃないかなと。

深山 晋作

うん、そうですね、そう思います!

石谷 貴之
石谷 貴之 (いしたに たかゆき)。2005年から都内カフェにてバリスタの道へ。2012年に独立しTAKA ISHITANIとして活動を開始する。バリスタ育成やトレーニング、ショップのディレクション、イベント内でのコーヒーサーブ、セミナー開催など幅広く活動中。競技会にも積極的に参加し、ジャパン バリスタ チャンピオンシップでは2度の日本チャンピオンを獲得するなど、コーヒーシーンにおいて数々の実績を収める。
石谷 貴之

だた淹れるだけなら、練習すれば誰でもできると思ってて。

接客はその人のマインドとか気持ちの持ちようでお客さんを愉快にさせたり不愉快にさせたりするので。

深山 晋作

テクノロジーはすごく進んでますから、人間ができる事というのはコミュニケーションとかサービス精神、その人がもってるパーソナリティとかがすごい出ますよね。

深山 晋作
深山 晋作 (ふかやま しんさく)。Samurai Dream株式会社代表。コーヒーに一目惚れし、バリスタ未経験ながら単身メルボルンへ、St.Aliで9年間バリスタを務めた。Australian Latte Art Championships 2018で日本人初のチャンピオンとなった異質のバリスタ。世界各国の大会でのデモンストレーションやトークイベント等にも招待される傍ら、次世代のバリスタ育成にも尽力している。2021年4月には、地元大阪でBarista Map Coffee Roastersをオープン。
石谷 貴之

確かにね。

深山 晋作

今後のバリスタというのが興味深いですよね。

こんなにテクノロジーが進んで、どんどん機械化されて美味しいコーヒーが抽出しやすくなる。ただ、再現性ってすごい難しいんですよねバリスタって。

石谷 貴之

目の前で作って出すっていうことに付加価値がある。これからそういうところで差がつくのかなと感じます。

いくらクオリティがよくても、バリスタがブスって顔して出してたら美味しくないですし、そもそも行こうと思わないですよね。

深山 晋作

意外とそういう店多いですよね、あまり言えないですけど(笑)

石谷 貴之

居心地よくないですよね。そういうスタッフの子たちを僕らは育てていかないといけない。そっちのほうが大事かなと思いますけどね。

深山 晋作

僕も日本に帰ってきたひとつの理由は、海外でバリスタとしてやってきた知識とか経験を若い子たちに伝えたいというのがありますし。

コーヒーはできるけどマインド的なものが間違ってるよねっていう方向性の飲食店としてありますよね。

石谷 貴之

うんうん。

深山 晋作

それはお客さんに対してのベクトルじゃないよね、あなたがやりたいことだよねみたいな。でも価値というものはお客さんがお金を払うわけですからね、価値というものには。

オーストラリアではお客さんがお店を選びますから。僕らがお客さんを選ぶわけではないので、こちらからお客さんにすり寄っていけるように指導はしてます。

石谷 貴之

なるほどね。

深山 晋作

いいコーヒーが抽出できると、そのコーヒーをもっと感動できるのってコミュニケーションなんですよね。感動するようなプレゼンテーションを、それにまたこんなコーヒー出てくるんだっていうのが感動だと思うんですよね。

石谷 貴之

そうだよね。

石谷貴之×深山晋作

競技会は普段現場でやってることを舞台でやるだけ

深山 晋作

僕はバリスタを育てていきたいと思ってます。メンタルじゃないですか。

2013年、夢の舞台だった世界大会のオーストラリアのときはMatt Pergerが勝ったんですよ。井崎さんもいたりして。その時ここに立ちたいと思って。1500人くらいに囲まれますからね。だから2018年あの時舞台立つ瞬間は鳥肌立ちましたよ。すごいアドレナリンですよ。気持ちよかった!

石谷さんも、優勝した瞬間なんか気持ちよかったでしょ?優勝したときの感動がやばいでしょ?

石谷 貴之

そうねそうね、ぜんぜん違うよね!

深山 晋作

世界大会行かれたときもどこでしたっけ?どうでした?

石谷 貴之

アムステルダム。

いやぁ一回目はフワフワしましたよ。地に足がついてない感じ。

深山 晋作

石谷さんでもなるんだ!

石谷 貴之

ほぼ覚えてない!

でも次の大会に臨むときはその経験を持って望めるから、それはいいチャンスだったなって思った。初めての舞台だと緊張するから。

深山 晋作

石谷さんでさえ!

石谷 貴之

いろんな意見はあるんですけど、僕は競技会と現場ってかけ離れてないと思うんです。普段やってることをあの舞台でやるだけなので、そこまでどうしようという感じではなかったです。

それよりかは、やってるとステージ上は楽しいですねほんとに。

深山 晋作

2018年初めての世界大会のときはブラジルで、2日間マラリアの注射打ったりで、それで体調崩してしまって。一週間前に入ってトレーニングをする場所を何店舗か探してて。

環境も違うし、そこにいる選手は僕が今まで見てきたプロの人達ばかりだったので。

石谷 貴之

大会って有名人に会った感覚ですよね。僕らからしたら。

その場で臨機応変に対応できることは、毎日の積み重ねが大事

深山 晋作

2018年の時は、気持ちが乗ってました。向こうから「Oh! SAMURA!」って言われるくらいでした。

あの時は気持ちは強かったので、相手に怯えないというか、あれはよかったかなと思いました。

石谷 貴之

それってトレーニングとかではなく、日常のお客さんと対面してるとアクシデントとか予想外のことが起きるじゃないですか。

毎日意識を持ってやることやってると、その場で臨機応変にできたりとか、アドリブが効いたりとか。その積み重ねが大事なのかなって思います。大会とか見てるとわかりますけどね。このバリスタ、普段からちゃんと接客してるなとか、接客あまりやってないんだろうなとか。

一個一個の所作とか雰囲気で出てくるので。そこは大事かなとは思いますけどね。

深山 晋作

やってることしか出ないですからね。

石谷 貴之

癖もあるし、緊張もしてるから、ふとした時に普段のこととか出ちゃうんですよね。

深山 晋作

僕も世界大会の時に悩んだのが、UHTミルクだったんですけど、すごい分離が激しくて。世界大会の時に30分間だけ練習があったんですけど、今までやってることができないことがあって。とりあえず落ち着こうと思って、一回インドネシアとマレーシアの選手にUHTミルク使ってる方が多かったんです。一回落ち着いてその人たちの撹拌時間測ったりとか、注ぐときの距離とか高さを測ったりしてフィックスできて。メンタルでしたね、コーチもいないし、なんとか自分で見つけていくという。プレッシャーでしたね。

国背負ってますからね、国からお金出ちゃってますから(笑)

チャンピオンになってからは一つの部屋を借りてもらって、大会と同じシチュエーションになって六か月間はその仕事だけです。トップ6入るまでは帰ってくるなって言われて。

石谷 貴之

それはプレッシャーだね(笑)

深山 晋作

でも普段働いてるときに囲まれるっていうそのなかで、スチーム触ってなくて注いでないのにカメラ何百台も向いてるっていうあの感じだと強くはなりますよね、慣れっていうのもありますけど。

僕の場合は気持ちが重要なので。絶対に自分が一番だと思ってやってます。戦闘派なので(笑)

石谷 貴之

自分の練習場所でパフォーマンスができたら勝てるというつもりでやってるので。そこまで仕上げていかないと勝負できない世界なので。日本大会も世界大会も一緒ですね。そこまでは絶対にこの日までに仕上げて、それができてないと出ても意味がないかなというのがあるので。

深山 晋作

準備が大事ですよね。

石谷 貴之

結局お店も朝の準備がよければその日1日がスムーズに流れていくんですけれど、バタバタしちゃってとりあえずお客さん来たけど準備できてないだとお客さんにもそれがわかっちゃうし、自分たちの気持ちとしてもなんか今日忙しなかったなというか。

朝ちゃんと来てセットアップしてその日のコーヒーの状態をチェックして迎えれるという準備が何事にも大事かなと痛感しますけどね。

世界大会のプレッシャーとストレス

深山 晋作

試合前とか絶対に座禅しますよ。前の日に食べるものとか。験担ぎじゃないですけど、そのほうが気持ちが乗ってくるので。不安だなと思ってしまうとよくない結果になる。

石谷 貴之

ルーティーンがあるんだ!

深山 晋作

2年連続2位なので(笑)

でもやるしかないので。ストレスでしんどくて。

石谷 貴之

プレッシャーで?

深山 晋作

プレッシャーで。始まる前の5分前に「今日は2位にならないで」って言われて。

石谷 貴之

またプレッシャーかけられて(笑)

深山 晋作

で、囲まれての1000人とかですよ。ST. ALiチームも全員いるでしょ。だからもうあの時勝った瞬間号泣だったもん。

でも嬉しかったのが、号泣したときに全員スタンディングオベーション。めっちゃ認められたと思いましたもん。あれから強くなりましたけどね。

石谷 貴之

それテンション上がるね!オーストラリアに渡った時は大会に出ることは目標だった?

深山 晋作

全然。Matt PergerとBen Morrowがいて、働き始めたときに大会出てみたらって薦められて。石谷さんは?

石谷 貴之

大会はとりあえず出てみようと。バリスタになるつもりでこの仕事を初めたわけではなく、勤めてたカフェでギャルソンをしたかったんです。

たまたまそこにエスプレッソマシンがあって先輩が辞めたので、自分がそのポジションになってやってたら、前年日本で3位になった人がお店に来てくれて。その人はバリスタではなく営業職なんですね。こういうのあるけどやってみます?みたいな感じで言われて。大会を見に行ったら面白そうだったので。

当時2006年くらいはチャンピオンシップって日本ではそれしかなかったんです。ラテアートの大会もなかったし。

深山 晋作

それJames Hoffmannが優勝したくらいじゃないですか?

石谷 貴之

そうそう。その前の大会に初めて日本大会に見に行って、若かったのもあってどれくらい自分の技術があるのかって試してみたいじゃないですけど。

それで初めて出たんですよ。出たらめちゃくちゃ楽しくて。「またすぐ競技したい」ってなって、あの感覚がたまらなく好きで大会に出ることがやめられなくなっちゃいましたね。

深山 晋作

バリスタとは成長ですよね。

最初は緊張しましたよね?僕なんか大会終わってから激痩せなんですよ。

石谷 貴之

したした。すごい。大会終わった瞬間、お腹痛くなった、胃が(笑)

最初は競技中も汗かいてた。その時はあまりよくなくて、いつからか競技中でも汗が止まるようになって、終わったら出るんだけど。そういう時はいい結果。

深山 晋作

なんかノックボックス忘れませんでした?その時勝ってますよね!

石谷 貴之

毎回ね(笑)

なんかアクシデントがあった方が勝つんですよね

深山 晋作

しかも落ち着いてノックボックス取りに行ってるからめっちゃ面白いですよね!

SCAJで生で見たからね、ノックボックス忘れてはって。しかも1回じゃないですよね(笑)

石谷 貴之

2回連続!

ないないないって(笑)

深山 晋作

そういうときは勝つんですよ、リラックスしてるんでしょうね。

石谷 貴之

そうそう。そういう時はなんかね。

深山 晋作

僕もまだまだ上を目指したいんですよ。

石谷 貴之

でも日本に帰ってきてくれて、ずっとやってきた僕ら同じ世代のコーヒー関係者は嬉しい。

深山 晋作

ありがとうございます!

石谷 貴之

大会だけが全てではないけど、大会に出場してくれることで若い子たちがバリスタを目指そうとして盛り上がってくれるんじゃないかな。晋作さんが日本の大会に出る姿を僕らは見たいなと思う。

深山 晋作

僕たちが目指しているのは、「お客様が感動するコーヒー体験」「プロフェショナルバリスタの人材育成」「バリスタの夢を応援するバリスタスクール」。お店のコンセプトでもある「コーヒーと人を繋ぐ焙煎所」の中でバリスタの方達が、成長し世界へバリスタとして輝ける場所をサポートしていきたいですね。

Photos & Interview & Text & Editor: 疋田 正志
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