「ねるっこ」とは?──自宅で気軽に楽しむ、本格ネルドリップの新提案

点滴抽出では手で器具を持ち、神経を集中させながら慎重に淹れる。ネルドリップコーヒーは「敷居が高い」というイメージがつきまとい、初心者には手を出しづらい存在でもある。
そんな中、「数ある抽出の中でもダントツに美味しいネルドリップをもっと多くの人に体感してほしい」と語る、珈琲美美の森光宗男氏が企画・監修し、フジローヤルとの共同開発で誕生したのが「ねるっこ」だ。ネル部分にコーヒー粉をセットし、上部からお湯を注ぐだけで抽出が始まるこの器具は、専門店の味を簡単に再現できる画期的なものだ。
「邪道だという声もあるけれど、ハンドドリップと比べても味に遜色はない」と話す日本ネルドリップ珈琲普及協会の代表理事・繁田武之さんに、「ねるっこ」の魅力について話を聞いた。
開発の経緯と背景
「ねるっこ」を開発することになった経緯について教えてください。どのようなきっかけがあったのでしょうか?

発案者は、珈琲美美の森光宗男さんが作ろうって言い出して。
自宅でも手軽に本格的なネルドリップを楽しめるような器具があれば、もっと多くの人にネルの良さを知ってもらえるのではないか、というアイデアから始まった。

「ねるっこ」は、森光宗男さんが考案されたんですね。

当初は、ネルドリップ普及協会でその器具を製作しようという話が持ち上がって。いざ実際に製品化するとなると多くの課題があって、難しいことが分かった。
そこで、フジローヤルさんに依頼して、製作の全てを任せる形で進めることになったんだよ。
製品の特徴と使い方
シャワー状に抽出されるんですね。

点滴のようにお湯が落ちる設計にするため、孔の数を13個に決めたんだけど、これも森光さんの強いこだわりから生まれた。
孔の配置や数とか、細部に至るまで全て森光さんがアイデアを出して設計を考えたものなんだよ。

森光宗男さんのこだわりと影響
発案だけでなく、企画や設計など製品化に至るまで、全て森光さんが手掛けられたんですか?

そう、全て森光さんの手によるもの。とにかくこだわりの強い人で、途中で妥協することを許さないから、納得のいく形になるまで何度も試作を重ねたよ。
最終的に製品は燕三条の職人さんに依頼して、1つ1つ丁寧にハンドメイドで孔を打ち込んでもらっている。だから、大量生産は出来なくて、すごく手間のかかるプロセスで作られているんだよ。
森光さんの思いが詰まってるわけですね。

ようやく完成して1ヶ月後かな、韓国での「ねるっこ」のデモンストレーションを終えて、帰りのソウル空港でお亡くなりになられて。なんか込み上げてくるものがあるよね。
淹れるテクニックは必要ない
「ねるっこ」を使うときは、ポットからお湯を直接注ぐだけでいいんですよね。特別な技術や手間が必要ないという。

そう、ただお湯を一気に注ぐだけで、特別なテクニックや経験は必要ないよ。だからこそ、誰でも手軽に美味しいコーヒーが淹れられる画期的な器具なんだよ。

自宅でも特別な技術がなくても、手軽に本格的なネルドリップコーヒーを楽しめるということですね。

私も淹れる技術がものすごくあるわけじゃないんだけど、お客さんから美味しいって言っていただいてるからね。
美味しく淹れるコツとかは?

初めに抽湯の量を少なくすれば、圧力がかからないからゆっくり落ちる。
逆にスッキリした風味に淹れたいのなら、抽湯量を多くすれば圧力がかかるから強めに出るでしょ。そうやって味わいを変えられるんだよね。
抽出してる時にその場に張り付いてなくてもいいですね。

そうなんだね。さらに美味しくするには、器具を手でグルグル回すことによって、均等に淹れられるようになる。

「ねるっこ」に向いてる豆はありますか?

深煎りをネルでドロっと抽出するというのはいいんじゃないかな。

どんな人が使ってるんですかね?

太宰府にある珈琲蘭館の田原照淳さんは、「ねるっこ」でブリューワーズカップ(JBrC)の予選に出たことがあるんだよ。
豆はフィリピン産の〈カラサンスウィート〉を使って出場したね。スウィートコーヒーっていうフィリピンのミンダナオで生産されてる希少品種なんだけど、すごくスッキリした味でいい豆だなって感じかな。
なぜ「ねるっこ」で競技会にチャレンジしたんですかね?

一番は森光さんへの思い入れが強かったからだと思うよ。
〈カラサンスウィート〉も森光さんがフィリピンのミンダナオ島で見つけてきたコーヒー豆だし、「ねるっこ」も森光さんが開発したものだからね。賞を取るとか入賞するとかよりも、これでチャレンジしたいっていう思いで田原さんはやったんだよね。
そういうことだったんですね。結果はどうだったんですか?

結果は予選落ち。けど、そういうのでチャレンジしてみるのもアリだと思うよ。
森光さんと〈カラサンスウィート〉のどのような関係なんですか?

森光さんのところにフィリピンに携わってる人が豆を持って来たんだよ。それでこの豆いいね、ってことでフィリピンに一緒に行ったんだけど。
産地が1000mくらいのすごい涼しい場所で、手持ちで20kgくらい持って日本に帰って焼いたけど、すごく美味しかったね。アテンドしてくれた女の子がいて、一生懸命広めようとして、日本でもオークションをやったりもしたんだけど。ある時に農民の人とアテンドしてくれた人が仲違いして、農民たちは直接アメリカに売っちゃったんだよ。あったら使いたい豆だけど、もう手に入らなくなっちゃったからね。

レシピと推奨する淹れ方
〈日本ネルドリップ珈琲普及協会〉の店でのレシピを教えてください。

20gで中挽きにして、浅煎りは200cc、深煎りは150cc。リクエストに応じて、マンデリンやコロンビアの深煎りで60ccとかもある。
浅煎りのような香りを重視する豆は、濃いと酸っぱかったりエグかったりするから水の量が多くして、深煎りは水の量を少なくして少し濃度を濃くするような。その時に抽出された量で味を変えることができるよね。
難しく考えないでネルの味を再現できるわけですね!

ぜひ、「ねるっこ」で皆さんにやってみてほしいですね。
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