Only Roaster(オンリーロースター)

親子二人三脚で引き継がれるコーヒー──カフェ・ベルニーニの継承と未来

2020.10.14
岩崎俊雄さんと健一さん親子

東京都板橋区にあるカフェ・ベルニーニは、親子二人三脚で営む温かなロースタリー。カウンターでは、マスターの岩崎俊雄さんが訪れる客を心地よく迎え、焙煎を担当するのは父の想いを受け継いだ息子の健一さん。それぞれが自分の役割を果たしつつ、親子ならではの息の合った連携でお店を支えている。

店内には、マスターとお客さんが気軽に言葉を交わす和やかな雰囲気が広がる。初めて訪れた人でも懐かしさを感じるような温もりのある空間だ。こうした親密な交流が、地元の人々に愛され続ける理由の一つだろう。

今回は、カフェ・ベルニーニの親子である岩崎俊雄さんと健一さんに注目。それぞれが持つ役割やコーヒーに対するこだわり、そしてお店が醸し出す独特の温かみについてじっくりと話を伺った。

ドトールの創業メンバーからスタート

岩崎健一

父はドトールの創業メンバーで、僕は小さい頃から家庭にコーヒーがある生活に触れてきました。

岩崎俊雄

当時の喫茶店文化、それこそ大坊さんやモカさんみたいなものがあって、そこにチェーン店のドトールの味が生まれてきた。いわゆる万人受けする飲みやすいコーヒーの味を作ってきたんです。

岩崎健一

ドトールでは人事以外はやってきた?

岩崎俊雄

人事以外もやってきました。メニュー開発、教育、焙煎、店舗運営などですね。

カフェ・ベルニーニ岩崎俊雄
岩崎 俊雄(いわさき としお)。カフェ・ベルニーニ代表。フランス料理店や九段下にある人気コーヒーショップの店長を経てドトールに転職。その傍ら、コーヒー業界発展のため団体役員歴任や各種メディアで活躍。1999年にカフェ・ベルニーニを開業。
岩崎健一

喫茶経営学の講師もやってて。カフェ・バッハの田口さんとマスターの出会いは、喫茶経営学院で田口さんが生徒、マスターが講師という関係が始まり?

岩崎俊雄

そう、講師として100人くらいのセミナーをやって、一番前に座ったのが田口さんなんですよ。そんな出会いから交流が始まって、将来自分で店を開くならカフェ・バッハの系統がいいかなと。

味作りはもちろん、あの南千住の山谷という悪条件で一生懸命やってることに驚きました。

岩崎健一

当時のカフェというのは、飲食だけでやってた印象があります。

岩崎俊雄

だからどうしても箱が大きくて立地がよくないといけないと思っていたところ、カフェ・バッハは山谷で喫茶と豆売りもやっているという事に共感しました。

家庭で美味しく飲めるコーヒー豆を作ればいいじゃないか、というところからカフェ・ベルニーニを作る構想が浮かんできました。喫茶は二棟立地だとうまくいかないことが多々ある。豆売りは全国に拡販できるので生き残れる要素がある。

岩崎健一

それには美味しいだけでなく、家庭で再現ができるコーヒーでなければいけない。例えば家事で忙しい合間に片手間で淹れても十分美味しいコーヒーを作る、というのがうちの方針です。

カフェ・ベルニーニ岩崎健一
岩崎 健一(いわさき けんいち)。カフェ・ベルニーニの焙煎から全てのコーヒーの味作りまで担当。Qグレーダーの資格を所持し、ジャパン ハンドドリップ チャンピオンシップの審査員を務める。ローストマスターズチームチャレンジ2018、2019と2年連続でチームの一員として優勝。

うちはコーヒー教室というのはやらないんですけど、即席のコーヒー教室を毎日やってます

岩崎俊雄

今までは、コーヒーは店で飲むものだと思ってた。それを自宅でも店で飲むようなコーヒーを再現してほしい、そのためには全てオープンにしています。

店で飲んで美味しかったというのも嬉しいですけど、やっぱり「家でも美味しく家で淹れられました」と言っていただけることが一番嬉しいです。

岩崎健一

カウンターでお客様が目の前に座ってマスターが淹れる仕草を見てる。うちは今はコーヒー教室は開催できていないですが、即席のコーヒー教室をやってます笑。

岩崎俊雄

そう、頻繁にやってます。

岩崎健一

ちょっとしたポイントを教えて、それを見て豆を買って家で再現していただければ。

岩崎俊雄

そこではサイフォンでもなければネルでもない。一番家庭でよく使われてるペーパーを使うということですね。いつも目線をお客様と一緒にしています。

岩崎健一

おそらく他の抽出方法とか収率云々とか、より美味しくなる方法が色々あると思うんですけど、それだと小難しくて家庭向けではなくなっちゃいますから。

岩崎俊雄

ポイントはそこじゃないかなと思うんですよね。でないと豆売りがそんなに出ませんよね。

カフェ・ベルニーニ
岩崎健一

卸売りとしてカフェや企業に卸すことで、量を捌いているところもあるかもしれませんが、私たちはまず地元地域の方達から支持をいただけるようなコーヒー店、そこにフォーカスを当ててます。

岩崎俊雄

「今日ベルニーニの美味しいコーヒー飲み行こうよ」って言われたいんです。ただの「コーヒー」ではなく「美味しいコーヒー」という店になれば嬉しいですね。商売ってそういうものばかりじゃないんだけどね笑

飲んだ後にもう一杯飲みたくなるような飽きのこないコーヒー。

岩崎健一

味作りに関しては、家庭で飲みやすいコーヒーを作る。そこで少しバリエーションとして深煎りから浅煎りまでエッセンスを入れる。軽いけどもコクがあって体にスーッと入って、飲んだ後にもう一杯飲みたくなるような飽きのこないコーヒー。

岩崎俊雄

ベルニーニブレンドは創業当時からありますが、基本線は変わりません。

岩崎健一

店作りは堅苦しくないようにしています。

SNSも存在を知っていただくためのツールとしてやっていて。今までは年齢層が高かったんですが、SNSを観て来られる若い層のお客様もいらっしゃいます。

岩崎俊雄

最近は客層が違いますね。

岩崎健一

老若男女ですね。

禁煙にしたということがきっかけで

岩崎健一

それと6、7年前に禁煙にしたというのもありますね。マスターは反対したんですけど。コーヒーとたばこは付き物だと。

岩崎俊雄

多少なりともお客様が減ってしまうのも怖かったんです。

岩崎健一

せっかくコーヒー専門店としてやってるのに、コーヒーの香りよりタバコの香りがドアを開けた瞬間バッとくるのはよくない。リニューアルする時期もあったので、それを機に壁紙を全部張り替えて禁煙にしました。

岩崎俊雄

結果的によかったですね。

岩崎健一

そのおかげでお客さんが増えました。タバコを吸いに来ていたお客様はいなくなってしまいましたけど、代わりにコーヒーが好きな方や若いお客様が増えました。

ベルニーニブレンド

コンセプトはお客様が美味しいコーヒーを家庭で飲むお手伝い

岩崎健一

カフェ・ベルニーニのコンセプトはお客様が美味しいコーヒーを家庭で飲むお手伝いです。

豆購入の方のために、豆を買いやすいように店内の環境を変えて、お客様が商品を手に取りやすいようなレイアウトにしました。

豆を買いたくても、店内で他のお客様がコーヒーを飲んでる側で豆だけの注文をするために入店してスタッフに声をかけるのは、なかなかしづらいかと。

岩崎俊雄

そういう心理はありますよね。

岩崎健一

カフェはふらっと、ビーンズショップは目的を持って入ってくる。だから豆売りだけだと通りすがりの人はなかなか入ってこない。カフェをやっているとそこで飲食ができる、飲んで淹れ方を教わって豆を買って帰る、そしてまた来てもらうというサイクルができます。

岩崎俊雄

そういう動機をつけてあげるのもいいですよね。美味しくて買っていくという一つの方程式があるならそれに沿っていくのが一番いいですね

適正価格で値引きがなくセットメニューもない、それで勝負したいという。きちっとやっていれば、という商売をずっとやってきたので。正統派です。直球勝負で!

岩崎俊雄さんと岩崎健一さん
Photos & Interview & Text & Editor: 疋田 正志
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