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プロに選ばれる抽出器具CAFECアバカフィルターとフラワードリッパー──三洋産業 中塚 茂次×JHDC2020覇者 黒澤 俊

2022.12.07
中塚 茂次 × 黒澤 俊
競技会の出場者から支持され、ここ数年この器具を使用してチャンピオンを輩出したことでも知られる、CAFECアバカフィルターとフラワードリッパー。

製造する三洋産業は「その先にあるコーヒースマイルを!」をコーポレートメッセージとして掲げ、美味しいコーヒーを家庭で楽しんでもらいたい、世界中のCoffee Loverに美味しいコーヒーを提供したいとの想いを軸に、「CAFEC」「YOUMECA」「百膳の夢」の3ブランドを展開。特に「CAFEC」は今や世界ブランドに成長した。

ペーパーフィルターのパイオニアであり、CAFEC(カフェック)創設者の、三洋産業代表取締役社長の中塚茂次さん。

2022年に開催された、2020年ジャパン ハンドドリップ チャンピオンシップ(JHDC)をアバカフィルターとフラワードリッパーを使って制覇した、PORTERS COFFEEオーナー黒澤俊さん。

作り手と使い手のお2人から、開発秘話とその優れた機能面を話していただいた。

海外でペーパーフィルターが使われるようになってきた

中塚 茂次

ペーパーフィルターは2020年1月以降、コロナの影響から急激にヨーロッパ、中東、インドからWebを見て多くの引き合いがきました。海外でもハンドドリップをする人が増えてきて、家庭でも紙の良さがわかるようになってきたんじゃないですかね。

黒澤 俊

コロナの影響で世界的に家でコーヒーを淹れる人が増えたんですね。

中塚 茂次
中塚 茂次 (なかつか しげじ)。株式会社三洋産業代表取締役社長。先代社長である父親の影響で、小さい頃から自然にコーヒーに対する興味を抱く。料理人としての修行を経て26歳で三洋産業に入社。製造、営業等あらゆる業務を経験した後、2003年に社長に就任。今も世界を飛び回り、本当に美味しいコーヒーを広げるセミナーを開催し、世界中のCoffee Loverを笑顔にし続けている。
中塚 茂次

円錐、扇形とあるけど、全体を含めてみると円錐の売上が65%を超えてきてます。

海外からペーパーフィルターの注文はかなりあるけど、コンテナが全然なくて出せない。フィルターは倉庫に保管してあって、コンテナが見つかればいつでも出せる準備はしてるんですけど。特にサウジアラビアからが多いんですよ。

黒澤 俊

ペーパーフィルターの生産量はかなり多いわけですよね。

中塚 茂次

月に何億万枚と作ってます。コンスタントに注文は増えてきてます。

黒澤 俊
黒澤 俊 (くろさわ しゅん)。PORTERS COFFEE オーナー。サラリーマン時代に興味本位で受けたコーヒーの通信講座がきっかけで2014年にネルドリップ専門店に転職。2016年に東京都立川市にハンドドリップコーヒーをメインに提供するPORTERS COFFEEを開業。ジャパン ハンドドリップ チャンピオンシップ(JHDC)2020優勝、2019 6位入賞。

抽出が早くて、材質が非木材

黒澤 俊

コロナ禍で世界的に家庭でコーヒーを淹れる人が増えたのはわかりました。そこでなぜアバカフィルターがこれほどまでに急激に選ばれ始めたのか。その要因はなんですか?

中塚 茂次

競技に出るバリスタや、お店で抽出するプロが使い始めたからじゃないですかね。抽出は早きゃいいってものでもないけど、まあ早い方がいい。プロはそれを腕でコントロールできるから。

ドリッパーの上から落ちるお湯の速度と、下に溜まるコーヒーの量が一定であることが理想だってことは、ずっと言い続けてきた。その中で抽出が一番早いのがこのアバカフィルターです。

黒澤 俊

なるほど。

確かにアバカフィルターは抽出がスムーズに進むからお湯の注ぎ方によって味わいをコントロールしやすいです。

僕がJHDCでアバカフィルターとフラワードリッパーを選択したのも、お湯抜けの早さがその理由の一つです。

中塚 茂次

あと一点は材質が非木材なんです。通常は針葉樹と広葉樹からパルプを作ります。そこに環境問題を考えて、非木材を少し入れることでアバカの繊維が硬くて絡みやすいことがわかりました。

材質が硬いので、お湯を入れた時にコーヒーに絡みやすくて抽出しやすい。それで海外で一斉に広がったようです。

アバカフィルターアップ
独自の抄紙技術によって作られた、内側もクレープ構造が特徴のアバカフィルター。

リンスをするか否か

黒澤 俊

僕らコーヒーを淹れる側は、ペーパーを湯煎するかどうかの議論をよくします。その時にアバカフィルターは圧倒的に紙の匂いがしないと。それが理由で使われる方は多いんじゃないかと思うんですけど。

中塚 茂次

よくその質問を受けるんだけど、逆になぜリンスするんですか、と聞くんですよ。そうすると黒澤さんのいう通り、大体の人が紙の匂いを消すというけど、基本的にうちは紙の匂いはしません。だからリンスしてもしなくてもいいですよと言います。

ただ、抽出前に器具を温めるという意味では、リンスすることによってサーバーを温めて保温させるので、やった方がいいということになります。

黒澤 俊

社長はリンスをしないんですか?

中塚 茂次

私はリンスはしません。リンスすることによって水分がドリッパーについてしまうから、ペーパーをセットした時に張り付いてしまうんですよ。あまり張り付かせると空気層を潰してしまうから最初の抽出が悪くなってしまうから。

ペーパー臭について

黒澤 俊

そうですか。三洋産業さんとしては、アバカフィルターを作るにあたって紙の匂いを軽減させようという目的で作ったわけではないんですね。

中塚 茂次

紙の匂いを軽減させようというわけじゃなかった。

無漂白のフィルター、今はブラウンって言ってますけど、これは漂白工程を取ってないので、どうしてもパルプ臭はあると思うんですよ。

ちなみに無漂白が売れてるのは日本と台湾だけなんです。他の国は一切売れない。

中塚 茂次
黒澤 俊

そうなんですか!

中塚 茂次

漂白は酸素でしています。

しかし大昔にテレビで塩素で漂白してるという会社が素っ破抜かれたんです。フィルターペーパーを塩素漂白してるなんていうことはないのに。その時に白がダメだという風評が出た。そこで日本が違った理解をしたわけです。

三洋産業は酸素で漂白してて、体内に影響を与えるような除去の仕方ではないので全然問題はないんだけど。松脂系のものは取るんだけど、漂白工程では取らないんでうちは薬は一切使っていません。

黒澤 俊

そんな事があったんですか!

漂白と言うだけで抵抗のある方もいそうですが、酸素で漂白されているのであれば安心ですね。

中塚 茂次

パルプが入ってるので、ほんとに無臭かどうかと聞かれると見解の違いは出てくるけど基本的に匂いはしません。

黒澤 俊

同じような円錐のペーパーを出してるメーカーはありますけど、そこと比べてもアバカフィルターは紙の匂いがしないと思うんですけど、それはなんでなんですか?

中塚 茂次

そもそも匂ったらアウトだからね。コーヒーの味を壊してしまうので。それは昔から我々がこだわってやってきたところですから。

黒澤 俊

浅煎りや深煎りで使い分ける焙煎度別コーヒーフィルターの工夫

黒澤 俊

三洋産業さんは浅煎り、中煎り、深煎りの焙煎度別のペーパーフィルターがありますが、その違いを一般のユーザーの方って理解されてる方は少ないと思います。具体的にどういう工夫がされているのかお聞きしたいです。

中塚 茂次

先ほど話したように、上から落ちるお湯の速度と下に溜まるコーヒーの液体の量が同じくらいにスーと落としていけばうまく抽出できます。要は蒸らした時の膨らみを絶やさずに抽出できるんですよね。

浅煎りは深煎りに比べるとガスの量が少ないので膨らみが小さい。だから、どうしても透過法でやろうと思っても、後半は浸漬法になってしまう。そこで様々な抽出をやってみたんですけど、浅煎りはゆっくりと落とす。お湯がコーヒーにあたる時間が長ければ長いほど美味しくコーヒーを抽出できるっていう理論を私は持ってて。

黒澤 俊

浅煎りは焙煎が深いものに比べて成分の抽出に時間がかかるので、ゆっくり落とす理論に納得です。

中塚 茂次

私はプロなので自分の腕でゆっくりコントロールできても、一般の方だとなかなか難しいと思うんですよ。であれば、もっとゆっくり抽出するためのペーパーがあればいいんじゃないかという。

黒澤 俊

抽出スピードを遅くするというのは、どういう仕組みなんですか?

中塚 茂次

クレープで抽出スピードをコントロールする。紙って鋤(す)くんですよね、その鋤きを変えていけば抽出の速度って変わるんです。そこに目をつけて、片面内側のクレープというシワを極力なくして、浅煎り用のライトローストフィルターというのを作ったんです。アバカフィルターに比べたら、抽出速度は少しだけ遅いです。

黒澤 俊

表面の形状で、意図的に抽出スピードを遅くしてるんですね。

中塚 茂次

中煎り中深煎りが元々ベースだったんです。これが一番抽出が速い。

深煎りは最後に少しだけボディ感を出すようにしたかった。なので最初は中煎り中深煎りと同じスピードで、最後だけゆっくり落とすような抽出をペーパーでできないかと思って。最初はスーッと最後はブレーキをかけて溜めるようなイメージで、コクを引っ張り出すような。

両面クレープで、中煎りよりもクレープをちょっと下げて表面積を減らした作りになってます。

黒澤 俊

深煎り用は、下部のクレープをより漉いてあえて抽出時間を延ばす事で中煎りとの違いを出しているわけですね。

中塚 茂次

結構いろいろ考えてるんだよ笑

黒澤 俊

相当考えられてますね笑

そこまでペーパーの使い分けをされてるところはないですから。

中塚 茂次 × 黒澤 俊
中塚 茂次

私がコーヒーを焙煎するからこういう抽出する紙を作りたいと思って研究した結果なんですよ。だから焙煎をしてなかったらそんなことわからなかった。そこで焙煎度別のペーパーフィルターを作ったら世界でヒットした。

黒澤 俊

なるほど。

中塚 茂次

それと温度もすごく大事で、一般の方は意外と知らないじゃないですか。

それで製品名に温度を記号で表したんです。温度は英語でTemperatureなので頭文字Tをとって、浅煎りは通常より少し高めの92度でT-92、中煎りと中深は今までと同じT-90、深煎りはガスが多いからあんまり熱いとガスが出過ぎてボコボコとなるので低めのT-83に設定しました。

黒澤 俊

それぞれに目安の温度まで表示しているんですか。家庭でコーヒーを淹れる時に難しい事は考えず、書いてある温度を目安にいつも通りにお湯を注げばペーパーがお湯の落ちるスピードをコントロールしてくれる。とっても親切な製品ですね!

ネルからヒントを得て開発されたフラワードリッパー

中塚 茂次

器具の話で言うと、フラワードリッパーなんだけど。元々、私は布フィルターが優れてると思ってる

鮮度のある新しいコーヒーは、膨らみますけど、その膨らむ作用をネルは極力抑えないでいる。それは抽出に必要だなと思って、工業デザイナーに型を作ってもらって。

黒澤 俊

僕もネルドリップのお店に務めていたので、そこはとっても興味があります!

中塚 茂次

要は抑えないで抉ってほしいと。抽出スピードが速いんです。

フラワードリッパーは、コーヒー粉がしっかり膨らむように設計されていて、ただ美しいというより機能的なデザインを追求したら、結果あの形になったんです。綺麗だね、というドリッパーというよりも美味しく淹れられるドリッパーを研究してきたので、そこに関しては自負をしてますね。

自分なりにコーヒーの理論と理屈から美味しく抽出できるための形を考えた時にこの形になった。

中塚 茂次 × 黒澤 俊
黒澤 俊

フラワードリッパーという名称は?

中塚 茂次

最初に有田焼で5色作った時に、並べてみたらお花みたいだったから、社内でフラワーって呼んでたんですよ。

黒澤 俊

社内で言ってたんですね。

中塚 茂次

それでいつの間にかフラワードリッパーなってた笑

社内で言ってた俗語が今は名前になっちゃった。

黒澤 俊

フラワードリッパーの底の受けの大きさは、いくつか試作をされたのですか?

中塚 茂次

もういろいろやりました。不思議なんですよね。底をちょっと狭ばめれば狭めるほど、要はリブをあげればあげるほど空気が抜けるかというとそうでもない。底の抜けの形が非常に大事で底の形状をうまく作らないと、コーヒー抽出の抜けが悪くなる。

黒澤 俊

穴の大きさ?

中塚 茂次

大きさもそうなんだけど、出っ張りの作り方が大事。

フラワードリッパー
穴周りのリブによって湯の通り道が形成され、コーヒーの味が安定する。
黒澤 俊

ボコボコしてますよね。

中塚 茂次

ボコボコしたリブの作り方が結構重要。コーヒーの道を作って安定した味になるようにしてる。そこは細かく計算されてるんですよ。

黒澤 俊

社内で淹れて試す訳ですか?

中塚 茂次

コーヒーの挽き方をいろいろ変えてみて、お湯を入れて通るか通らないかのテストを何回も繰り返して。そこで最後の底の角度とかを計算して作って。

黒澤 俊

これを社長が考え始めてから製品化するまでどのくらいの期間がかかってるんですか?

中塚 茂次

なんだかんだで2年くらいはかかってるけど。実際決まってから金型作って半年ちょいかな。ある程度のノウハウを持ってるので、そこまで時間はかからない。

黒澤 俊

JHDCでは、年々フラワードリッパーとアバカフィルターを使う競技者が増えています。その理由の一つとしてお湯抜けの良さが挙げられると感じています

競技の性質上、どんな豆がでてくるか当日にならないと分からない。

豆によっては目詰まりしやすくお湯が全然抜けていかないなんて事もあるので、そのリスクを少しでも避ける為に選ばれているのかなと。

あとはペーパーの匂いの問題。CAFECブランドのペーパーはほぼ無臭でコーヒーの繊細な味わいを阻害しない事も選ばれる大きな要因だと思います。

黒澤 俊ジャパン ハンドドリップチャンピオンシップ(JHDC) 2020大会は、延期のため2022年に開催された。
中塚 茂次

昨年の大会から、予選も含め「CAFEC」のペーパーとドリッパーを使う選手が急に増えたことに驚いています(笑)。

お湯の抜けは抽出条件として一番重要視して研究してきたところです!抽出をコントロール出来るペーパーこそ、世界レベルで通用するコーヒーフィルターだと思って研究してきました。

ペーパーの匂いも、ほぼ無臭になるような研究も重ねてきましたし、そこも評価いただき、今までの苦労も報われています(笑)

黒澤 俊

社長のコーヒーに対する強い思いが、より繊細な味作りを求められる競技者に届いたのですね。

中塚 茂次

そうおっしゃっていただくと、涙が出るほどうれしいです!

これからも、競技者のみならず、コーヒーラバーに喜んでもらえる商品の開発に努めて参ります!

Editor & Text & Photos: 疋田 正志
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