Only Roaster(オンリーロースター)

LATTEST×BERTH COFFEE──女性ロースターのアタマの中

2022.01.31
宗広 裕美 × 西村 結衣

コーヒーをもっと身近に楽しんで欲しい、ロースターとして活躍する女性たちを増やしたい。

男性社会といわれてきたロースター業界でも、それぞれに熱意や希望を持ってロースターとして活躍する女性が増えてきている。今回は、LATTESTのリーダーとしてチームをまとめる宗広裕美さんと、BERTH COFFEE Haruの立ち上げから携わった西村結衣さんに、女性ロースターならではの強みや悩みについて聞いてみた。

焙煎士としてのスタートは

西村 結衣

ラテストは女性だけですよね

宗広 裕美

そう、スタッフは全員女性だけです。社長以外はね。焙煎のスタートはグリッチさんでのシェアロースターですが、お世話になったときは、めちゃくちゃ緊張しました。

男性からコーヒーについてレクチャーいただくのは初めてだったので。グリッチさんの女性バリスタの方がいらっしゃる時は、かっこいい雰囲気のなかに少し柔らかさもあって、ほっとする感覚がありました。

宗広 裕美
宗広 裕美(むねひろ ゆみ)。「世界一の女性バリスタを世に送り出す」というコンセプトのもと、表参道にオープンしたLATTESTのマネージャー兼バリスタロースター。LATTEST全店舗のスタッフ育成のほか、これらの店舗開発にも携わる。結婚や出産といったライフステージの変化にも、より長く働ける環境づくりを目指す。
西村 結衣

裕美さんが直接、グリッチの鈴木さんから焙煎を教わったんですか?

宗広 裕美

そうなんです!本当にありがたくて貴重な経験ですよね。

前任のマネージャーが焙煎をしに行くときに、見学したりお手伝いさせてもらいましたが、マネージャーが退職後にバトンタッチ。完全に1人だったから、もうどうしよう、不安!不安!!不安だー!!!という気持ちでいっぱいでした。

そんな私をきっと見兼ねて、数ヶ月は鈴木さんが焙煎のことはもちろん、焙煎中のスモールトークも、いろんなことを話してくださって。優しくて偉大な方だなぁと思ってます。

西村 結衣

グリッチとラテストの味は違いますよね。それは長年かけてラテストの味みたいなものを作ったんですか?

宗広 裕美

それが、グリッチさんとは同じ味にしたくてもならないんです(笑)

もちろん、一緒の味にならないのはスキルの差が大きくあると思いますが。焙煎機もグリッチさんと同じだし、困った時はレシピも見に来てくださって、一緒に焙煎してもらって、アドバイスもいただいたけど。

その時に焙煎したお豆と、後日焙煎したお豆の味を比べても何かが違う。鈴木さんが横にいてくださるとおいしく焙煎ができるのもすごくて、不思議なところですよね。数字や理論、職人技、センス、トータルバランスで焙煎って成り立っていると思うので。

教えてもらったことから、自分でも少しづつ探求して行った結果、今のLATTESTの味ができているかと。まだまだ試行錯誤中ですよ。

西村 結衣

そういうのありますよね(笑)

西村 結衣
西村 結衣(にしむら ゆい)。ホステルの一階にあるコーヒースタンドBERTH COFFEEの焙煎部門として2021年に設立されたBERTH COFFEE ROASTERY Haruのマネージャー兼焙煎士。学生時代に通っていた焙煎セミナーにハードルが高いと感じていた経験から、気軽にシェアローストできる環境を作ることを目標としている。
宗広 裕美

鈴木さんがいろんな操作をしてくれるとかではないのに、なぜかいてくれると美味しく焼ける、、「すごいなー」の一言です!

西村 結衣

私も2人で焼くことがあるんですけど、そういう時はカッピング取ったりして意見が言い合えて。「このカップは前よりいい」とか「よくなった」とかを言い合えるけど、1人で焼いてるとまずいと感じることが多くて思うように焼けない。どんどん負のスパイラルに入ることがある。

宗広 裕美

集中は1人の方ができるかもしれないけど、意見を交わし合うのは大切ですよね。

西村 結衣

今度焼いてるときにきてもいいですか?

宗広 裕美

もちろんもちろん!

宗広 裕美 × 西村 結衣
西村 結衣

めっちゃ見たい!焙煎機が日の当たる気持ちよさそうなところにあるし!

宗広 裕美

それこそ結衣さんは、シェアロースターを招いてお店で教えてる側でもありますよね。

西村 結衣

今は基本的に経験者のみで、ローリングの使い方は教えるんですけど。来られる方のほうが、焙煎歴の長い方が多いですよ(笑)

ほとんどの方はローリングで焼いたことがなくて、意見交換とかしたり。コロンビアだけはどうしてもローリングでやりたい、という方とか。

宗広 裕美

マニアックですね(笑)

西村 結衣

初めて焙煎を勉強したのがライトアップコーヒーで、フジローヤルを初めて使った時に焙煎ってやること多すぎだなーって思って。

宗広 裕美

確かに。初めはやること多すぎる。。。パニックってなってました(笑)

結衣さんは学生時代に実費で通って焙煎を学んでいらっしゃいますよね。教えてくださる焙煎士さんによって、教え方ってきっと全然違うじゃないですか。それを身につけるのは大変ですよね。でもその大変さも知っているから、上手に教えていそう!

人にレクチャーするのって難しくないですか?例えば私が感じたことだと、数字だけじゃないセンスの部分で、すごい繊細でこの香りが出たらってアドバイスも、今鈴木さんが嗅いだ香りと、その次の瞬間に私が嗅ぐ香りは私はまた違うので。

そういう些細な違いも読み取ってもらえるように説明するのは難しいなーと思うんです。

西村 結衣

ちょっと違うニュアンスだとか

宗広 裕美

焙煎は人に教えるくらいの言葉にはまだできてなくて。ラテアートだとワークショップとかもやっているし、経験値もあるから。

西村 結衣

毎日ドリンクとして出してますしね。

宗広 裕美

そう私にはラテアートは指導しやすいですね。それは解説ができるようになっているから。だけど、焙煎はまだ感覚のレベルだから説明が上手くできていないと思うんです。

西村 結衣

今はですか?

宗広 裕美

そうなんです。だからそういうシェアロースターをやったり、例えば焙煎機のワークショップしてみようとかなったら凄い大変なんだろうなって。どうやったら説明できるんだろう。知りたいと思って。

西村 結衣

それやりたいなーと思ってて!自分の経験値をたくさん積んでアウトプットできるようにならなきゃって。

宗広 裕美

なんなら私も結衣さんのレッスンのやり方を学びに受けに行きたい!

西村 結衣

いつでも来てください!

宗広 裕美

女性だけのチームってどういう感じですか?

西村 結衣

女性だけのチームってどうなんですか?

宗広 裕美

ラテストはありがたいことに人間関係でトラブルはなく楽です!

人間関係で問題があるとストレスも多くなるじゃないですか。でもラテストは言われたことだけでなく、それ以上、その先まで考えて動いてくれるの。すごく献身的で真面目で、いいバランスでそれぞれ刺激しあってる。チームワークを持ってやってほしい!と願っていることが形になってると思います。

たまに言われるんですよね、女性だけって色々面倒もあるんじゃないですかって。

西村 結衣

ありますよね、女性社会の何かがありそうだとか。

宗広 裕美

私自身もそう思ってたんですよ。でもそれは偏見だったなと。アルバイトの面接とかでも、ラテスト女性ばっかりだから、それがちょっと心配だって方もいますけど。そこは大丈夫!と即答できます。

西村 結衣

いいですね。私はマネージャーという立場でもありますが、ヘッドロースターとしてBERTH COFFEEとしてのクオリティコントロールも仕事の一環で。

クオリティコントロールすることはバリスタのモチベーションとかも関わってくるじゃないですか。だから裕美さんがどんな感じでマネージャーとしても働いてるのかみたいなことを聞きたくて。

宗広 裕美

割とみんなと対等でいたいと心がけています。みんなと同じ目線で。でも気になったことは、こうしてほしいな。とフィードバックはしますけど。

普段からみんなには信頼と感謝の気持ちを伝えているつもり。言葉でも実践においても私も精一杯仕事している姿を示しているから、みんなもモチベーションを下げずに頑張ってくれているんじゃないかなって感じています。

西村 結衣

確かに。みんなコーヒーをちゃんとお客さんに届けよう、みたいなバリスタが多いですよね。

宗広 裕美

コーヒーとラテストを本当にピュアに好きなスタッフばかりで。ラテストのコーヒーを知ってもらおうって、純粋な気持ちでお客様へもおすすめするから、受ける側もスムーズに言葉が入ってくるのかも。

西村 結衣

めっちゃ気持ちいいですね。バースコーヒーは元々男性が立ち上げたブランドですし、今も男性が多いので難しいんですけど。意見があったらみんな人それぞれで進めてくし、その人に責任があるみたいな感じなんですけど、男性の考えてることを、なかなか理解して発言までするのが難しいなーと思ってて。

女性だったら割と気持ちを汲み取って、感情にフォーカスして寄り添ってあげられるんだけど。

宗広 裕美

なるほど。違いますね。

西村 結衣

そこが違うから、使い分けがめっちゃ難しくて。女性のバリスタにはこうやって、男性にはこうしてって脳の使い方が難しくて。

多分それはそれでコミュニティにとってメリットデメリットはあるし、ラテストも女性しかいないっていうメリットデメリットもあるのかなとか。

西村 結衣
宗広 裕美

そう思うと楽だと思います、自分も女性だから、皆んな理解し合えるのかなって。

西村 結衣

確かに。

焙煎で活かせる女性ロースター特有の得意分野って何?

西村 結衣

男性は一つの事に集中することがすごい得意ですよね。裕美さんはマルチタスクの話とかされてて、まさにそうだなとは思ってました。それを焙煎に生かせた経験とか、焼いた豆の美味しさを伝えるとか、何かありますか?

宗広 裕美

美味しさを伝えるっていう意味では、プラスアルファのストーリーは女性の方が共感しやすいですよね。

例えばルワンダは内戦が過去にあった国なので、男性の方が多く亡くなったりしてるから、政治や警察消防署とかにも女性のリーダーがたくさんいる。

農園も女性が頑張ってるっていうストーリーを聞いたら、私たちラテストも女性だけだから、パワーをもらうし、応援したいと思うし、その話も織り交ぜたりとか。

西村 結衣

それはいいですね。

宗広 裕美

そういうエピソードを、豆の提案の時に「だからこのお豆私の今日のイチオシなんですよね!」みたいに話せたりとか。

西村 結衣

私はそれできてなかったかも。すごい参考になる!

宗広 裕美

私は話すのが好きなので、そういう話を交えておすすめしたりとか、スタッフにもこういうストーリーがあるんだよ、とかっていうのはたまにシェアしたりする。

西村 結衣

愛着持ってもらえそう。お客さんに伝えることって結構あると思うんですけど、何か私がお客さんでいたときにも豆のストーリーを話してもらって嬉しかったことを今思い出しました。買い付けるときは、そこでストーリーとか話してくれたりするんですけど。

宗広 裕美

意識が変わりますよね。

西村 結衣

でも私は自分の中で消化しちゃって、私だけモチベーション高い状態になってるんで、それをみんなに共有する必要あるなって勉強になります(笑)

宗広 裕美

お客様にもいろんなことをシェアすると、すごくワクワクして聞いてくれていると表情で伝わるし、これにしようと思ったけど、気持ちがガラッと「こっちにチャレンジしてみようかな!」となることも。

その時選ばれなくても、別の機会に繋げられると思ってます。女性として焙煎してるときに何かメリットあるかと言われると、どうだだろう。。何かあったりします?

西村 結衣

今はお店で一緒に焙煎やってくれるのが男性なんですけど、焼いてる最中に数字を見て、次に焼く生豆の用意をして、発送準備して、私は全部一気にやるんですよ。

向こうは何やっていいかわからなくなくなっちゃうって。これなんかは女性ならではのマルチタスクというか。

宗広 裕美

確かに、それできますね。ちょっと梱包してラベリングして。持ち場は一瞬しかはならないけど、カウンターの方に目が向いてるというのはありますね。

西村 結衣

それって意外と女性特有の得意分野なのかなって。

宗広 裕美

女性は男性よりも聴力がたけてると聞いたことがあるけど、でも焙煎をしている時に、お豆が爆ぜた瞬間の音が聞こえないなぁという時もあるんです。人それぞれだし、身体的な能力差みたいなのは、女性の方がとか、男性の方が、とか断言しづらいですね。

西村 結衣

そうですよね。多分、脳の作りみたいなのが大っきいかなあ。

宗広 裕美

だから、並行して何か違うことも考えられることができるし、そのときにじゃあ1個のことに集中してないかと言われるとそうじゃない。

西村 結衣

そう、同時に考えられるみたいな。うちは焼いてて、これなんか前に言われたことだなっていうのをふと思い出して、何か作業し、ワーッとやったりとか。

でも何かそういうの得意分野を見つけていけたら、むしろそれが付加価値になったりするのかなあと思ったりしてました。

宗広 裕美

体力的にはしんどくないですか。麻袋とか重いもの引っ張ったりとか。

宗広 裕美 × 西村 結衣
西村 結衣

それはしんどいですね。

宗広 裕美

出来上がった豆袋をバックヤードに持って行くのだって結構な力作業だし。そういう意味では、すぐ疲れるじゃないけと、私は焙煎の日はもうヘトヘト。。

西村 結衣

そう、めっちゃヘトヘトですよね!頭もすごい使ってますよね。焼いてるときにいろいろ考えて。

宗広 裕美

焙煎に慣れてきてもね。毎回些細な違いはあるから結局、全然慣れないですよね。

焙煎において活かせる女性特有の性質(得意分野)って何かあると思いますか?

西村 結衣

1日にどれぐらい焼きますか?

宗広 裕美

今日も焼くんですけど、12時から休憩1時ぐらい挟んで19時まで。

宗広 裕美 × 西村 結衣
西村 結衣

焙煎ってほんと疲れるから、最後の方はちょっと作業になりがちなんですよね。

宗広 裕美

だから、いかに作業にならないように自分の気持ちも持っていくか。あと作業になりそうになったら、潔く止める!

西村 結衣

潔く止める勇気みたいなのすごい必要ですよね、めっちゃわかる!

宗広 裕美

リフレッシュは必要ですね。焙煎してても仕事をしてても。

西村 結衣

昨日5バッチやったんですけど、すぐカッピングをして、そこから微調整してもっと美味しくできるかな、みたいなものを考えるんですけど。もう疲れちゃうんで、必ず5バッチやったら15分仮眠するみたいな。

宗広 裕美

それでまた集中をするんだ。

西村 結衣

1回焼きます(笑)

でもそれぐらい焙煎って頭も体も使うんだなみたいなのが。

宗広 裕美

焙煎した後すぐにカッピングすると、どうしたって焙煎臭があるじゃないですか。その奥に確かに味わいって隠れてるし、これよくなりそうだなとか、これちょっとダメかなみたいなふうに思うけど。それでもすぐにカッピングをしてるんですね。

西村 結衣

そうですね。

宗広 裕美

次に調整をかけたいからってことですよね。

西村 結衣

ちょっとやりすぎちゃったなって思ったら、デベロップだけを5秒短めにしてみるとか。参考資料みたいなのが少なすぎるので、これもっと鮮やかにしたいなあとか、ちょっとボトムの温度上げたいみたいなのを微調整して、サンプルも1週間とか2週間経ったのを50gずつ取ったりはしてるんですけど。焼いてすぐの感覚みたいなのも、大事にしたいなみたいなのあって。

ローリングは特にエイジングが長くて、1週間経ってからじゃないとなかなかわからなかったですね。そこまでの焼いてるときの熱量みたいなのを、1週間保つのって忘れちゃうんですよ。

宗広 裕美

確かに時間が経つと結局どうだったっけ?ってなりがちですよね(笑)

他のロースターを意識するのか

西村 結衣

他のロースターさんを意識したりしますか?

宗広 裕美

ライバル意識はゼロ。みんなすごいなーと尊敬の気持ちしかないです。結衣さんも同じ。美味しいお豆を焼いてるみんなにいろんなことを教えてもらいたい。

西村 結衣

この店はちょっと自分の作りたい味わいに近いのかな、とかは思ったりしますけど、焙煎の腕前の善し悪しみたいなのはないですね。そもそも同世代で焙煎している人は少ないですし。

宗広 裕美

結衣さんは今何歳ですか?

西村 結衣

25歳です。初めて焙煎したのが20歳で、それから5年経って今は経験不足みたいなものを日々痛感しています。経験が少ないっていうのを知りながら、これどんなふうに焼いてるんですかみたいなアタックしてます。

宗広 裕美

みんな優しいですよね!レシピ教えてくれますよね。

西村 結衣

教えてくれるんですよ。焙煎はすごく専門性が高くて、そのお店の味みたいなものを気軽に聞いちゃいけない、みたいなものがありそうなんですけど、実際はみんなあっさり教えてくれる。

宗広 裕美

教えてくれるのは、その方も確固たるスキルがあるからですよね!努力ももちろん大切だけど、センスがある人には、もう勝てないんじゃないかな、と思うこともありますよね。自分なりのセンスは磨いていきたいですね。

西村 結衣

ですよね。何かに拘れるみたいなのは、むしろ男性が多いですよね。突き詰めてみたいな。リスペクトします!

宗広 裕美 × 西村 結衣
Photos & Interview & Text & Editor: 疋田 正志
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