Only Roaster(オンリーロースター)

競技会で結果を出す為の思考──BrewmanTokyo小野光 × Kondo Coffee Stand近藤寛之

2024.02.29
小野光×近藤寛之
今回対談いただいたくのは、コーヒーでやりたい事を実現させていく為に、競技会で実績を残してきた二人。

競技会出場のきっかけ、優勝してからコーヒーの向き合い方に変化はあったのか。コーヒーと、ある共通の人物によって繋がったというエピソードも。

ジャパン ブリューワーズ カップ(JBrC)の覇者Brewman Tokyoの小野光さんと、ジャパン サイフォニスト チャンピオンシップ (JSC)の覇者Kondo Coffee Stand近藤寛之さんに、深く語り合っていただいた。

競技会出場のきっかけ

近藤寛之

小野さんは2017年が初めての準優勝ですよね?

小野光

そうです。

ただ、その前の年の2016年にJHDCにも出てるんです。

当時は、募集すれば出れた時代というか、結構気軽な大会だったので出場したんすけど、グループ4人中3位でした。

近藤寛之

その時は誰に相談されたのですか?

小野光

粕谷さんです。僕が香港でお店をやってた時に、粕谷さんが香港にイベントでいらっしゃって。その時に、目標はブリューワーズだったんですが、慣れるために出てもいいかもねってことでJHDCに出たんですよね。

JHDCも淹れることに変わりはないとは思ってたら、意外と難かったですね。そもそも理解が足りなかったし、めっちゃ緊張したとこはあったので。

結果として、翌年の2017年に準優勝できたので、よかったですけど。

小野光
小野光 (おの ひかる)。BrewmanTokyo店主。岩手県一関市出身。メルボルン滞在後に香港でBrew Bros Coffeeを立ち上げ、オーナーバリスタとして活躍。2021年には、拠点を千葉のPHILOCOFFEAに移し、翌年ジャパン ブリューワーズ カップ(JBrC)で優勝。2017年、2019年、2023-2024年大会では準優勝。2023年、渋谷区代々木にBrewmanTokyoをオープン。
近藤寛之

小野さんって急に出てきて、僕らとしては戦々恐々としてました。香港からすごいやつがやってきたみたいな。こいつ怖えーと思ってましたもん(笑)

 

どんな尖ってる人かなと思ったんですけど、めっちゃこんな形で、めっちゃ丸い人だなと(笑)

 

そのギャップにやられました。めっちゃいい人やんって。

小野光

でも、当時はちょっと尖ってましたね(笑)

近藤寛之
近藤寛之 (こんどう ひろゆき)。Kondo Coffee Stand店主。埼玉県新座市出身。お洒落なカフェに憧れ会社を退職後、開業に取り組み始めるがその過程で出会ったスペシャルティコーヒーとバリスタのスキルに感動。以降コーヒー専門店に方向を変えていく。スペシャルティコーヒーの感動を伝えていくにはやはり抽出スキルが必要と感じ、競技会にトライしていく。ジャパンブリューワーズカップ2016年6位、2018年準優勝。2022年ジャパンサイフォニストチャンピオンシップにて念願の優勝を飾る。

影響を受けた、ある共通の人物

近藤寛之

なんでブリューワーズだったんですか?

小野光

当時はジャパンブリューワーズカップかジャパンバリスタチャンピオンシップっていうのが、僕の中ではメインの大会だったんですよね。

JBCは、機材とかが多くて、大掛かりになりそうだなっていうのがあったんですよ。ブリューワーズカップは、粕谷さんが世界大会で優勝したというのもあって。

日本人で世界チャンピオンになったことが、結構クールだなって。それで自分もやりたいなって思って参加したのがきっかけですよね

近藤寛之

粕谷さんの影響は大きいんですね。

小野光

でかいっすよね。その時の、粕谷さんとか、WBCだと岩瀬さんが2位とかっていう時代で、日本人が活躍してたとこを見てたから。

近藤寛之

印象はどうでした?

小野光

いや、ほんとに普通の人っていうか。めっちゃオーラがある、みたいな感じには僕は思わなかったというか。

よくクールってイメージされてますけど、僕が参加したイベントで食事した時は、全然普通の感じでしたね。

小野光
近藤寛之

僕もきっかけは粕谷さんなんですよ。

粕谷さんきっかけでブリューワーズに出たんですけど、2015年の粕谷さんがジャパンで優勝した年に、SCAJでずっと見てたんですよ。

小野光

そうだったんですか!

近藤寛之

小野さんが言った通り、バリスタチャンピオンシップだとプロが見せる技っていう感覚だったので、到底僕にはできんと思って。その時に、粕谷さんのプレゼンテーションが、プロが見せる技じゃなくて、誰でも美味しく簡単に淹れられる、消費者の皆さんが美味しいコーヒーを簡単に淹れられるようなことを提示していて。すごい普通なことやってたんですよ。

すごいシンプルなプレゼンして、僕は”こんなんでいいの?”って思ってたら、そのまま優勝したので。もう衝撃が走ったというか。

粕谷さんに対しての考え方とか、今まで極めたものしかできない方がやる大会を、ああいう形で間口を広げたのって、多分粕谷さんだと思うんですよ。きっとそう思った方はいっぱいいると思うんですけど、僕もその1人で。

小野光

すごかったですよね。僕は動画で見ましたね。

近藤寛之

かっこよかったですよね、僕にとっては粕谷さんのやり方が。ああいう感じで目指してみたいなって思ったのが、1番のきっかけでしたね

僕ら世代って、結構粕谷さんの影響は結構大きい。世界大会での勝ち方がセンセーショナルすぎて。

小野光

世界大会で勝てる人が、近年においても優勝はないんで、それがインパクトでかかったっすよね。

近藤寛之

まさか2人とも粕谷さんっていう感じでしたね。

近藤寛之

競技会と私生活

小野光

競技会を絡めると、大体めちゃくちゃになることの方が多いですね。時間の感覚っていうか、競技会出る前って、すごく練習するじゃないですか。

僕の場合だと夜やることの方が多くて、朝はお店開けるギリギリまで寝てて。夜が大体6時とか7時くらいには終わるんで、そこから夜中までやることが多かったですね。

近藤寛之

僕は、食べ物、辛いものとか刺激物のパンとかを意識してたんですけど、小野さんはそういうのもあったんですか?

小野光

僕は、元々辛いものとか食えないんですけど、メルボルン行った時は、甘いものとかは食べないようにしました。

大会前日はよくないですけど、1週間前までならビールとか飲みたいですよね。

近藤寛之

それは逆にストレスを溜めないために?

小野光

そう、遅い時間まで検証して調整して、家帰った時に、味のないものしか食べないってなったら、きついじゃないですか。それなら1本だけでもいいから ビール飲んでストレスを発散させる。

近藤寛之

うーん、僕は逆なんですよ。

大会前になると、どんどん溜めてこんで、ストレスをかける感じですね。

小野光

あえてわざとストレスをかけるんですね。

近藤寛之

あえてかけます。

僕は、お菓子食べたりジョギングするのがストレスを解放する瞬間なんですけど、それも全部やめて、ひたすらコーヒーと向き合い続けて、ストレス溜めて溜めて爆発するぐらいまでやります。

その状態って、緊張状態に近いじゃないですか。大会って緊張するので、同じ緊張状態を常に持ってる状態で練習すれば、本番でも緊張しないかなみたいな感じで、もうひたすらストレス溜めましたね

小野光

そうなんですね。全然想像できないですね。追い込む意味がよくわからない。

近藤寛之

優勝した時はガリガリになりましたね。

追い込むことで満足するんですよ、自分の中でやってるなっていうのを。数を重ねることで、技術を身につけるのも重要だけど、それだけじゃなくて。これだけやったんだから大丈夫みたいな自信になってくるじゃないですか

小野光

近藤さんとは対極の感じですね。正直僕はもうなんかストレスフリーだから、多分ゆとりなんですよ。

近藤寛之

でも、逆を言えば自信がないんですよ。

小野光

僕も自分に自信はないんですけど。ここ2、3年は、自分のやりやすい、いかに環境を整えてるかっていう方向に行っちゃってますね。

小野光×近藤寛之

ブリューワーとサイフォニストのアイディア

小野光

検証とかはどうやるんですか?そういうアイディアは、どうやって浮かんでくるのかとか。

もちろん、美味しいコーヒーを作るっていうのがゴールであるとは思うんですけど、例えば、エアロプレスのパドルを使って攪拌させたりとか、なんか色々やってたと思うんですけど、どういう思想からそういうのって出てくるんですか。

近藤寛之

基本的に、大会だからっていう考え方はしてませんね。毎日のように検証はするので、その中で新しい発見をしていく中で、大会が6月にあるなら6月までずっと検証は続けてくじゃないですか。大会の1ヶ月ぐらい前までに、培ってきたこの経験則を喋ったという感じです。この5ヶ月間で私はこういうことがありました、こういうことやってますっていう。

あと、僕はなるべく大会に出て披露するものは、皆さんにアウトプットしたいっていう思いがすごい強いから、特別なことしたくないんですよ。今だったらパラゴン使うとか、この大会じゃないと出せない淹れ方とか。

特別なことやってしまうと、フリーで楽しめなくなってしまうし、誰でも美味しくっていうのも大事にしてるので、そこを意識してる分、日々の検証でプレゼンも成り立ってくれるような感じですね。

このBBメソッドも、ふとした瞬間でできたメソッドなので。

小野光

それなんすか(笑)

近藤寛之

メソッドを命名するとか、僕もあまり好きじゃないタイプなんです。

イベントやサイフォンの大会で、新たにできた感覚なんですけど、ブリューワーズのみでやってた時は、とにかく美味いコーヒーを作ればいいでしょ、っていうストロングスタイルの精神だったんです。

2023年にサイフォンで3位になって勝てなかった時も、ストロングスタイルで美味しいコーヒーやシグニチャを出せばいいだろっていう感じだったのが、それで勝てなくて。

実際にチャンピオンは、五味っていうところで、鳥ガラ使ったりとか、コーヒーとこれで合わせたらどうなんのっていう、なんかこうびっくりするというか、どういう感じになってるかってワクワクするようなドリンクを提供したんですよ

それを考えた時に、人が感動する時って、もちろん美味しいものを食べて美味ってなるかもしれないですけど、こういうストーリーが色々な過程があることで、さらに感動っていうのが出てくるんだろうなと思って、そこを最近大事にしています。

小野光

わかる!

近藤寛之

今、レッドブルとか餃子とコラボしたり色々やるんですけど、コラボしていこうっていうので、そこで色々どうなっちゃうんだろう、ワクワクするなって思うことをより意識するようになって、その過程ですね。メソッドも。

BBメソッドっていう、なんかよくわかんないメソッドを放つことによって、どうなんだろうな、どういう理由なんだろうなって思っていただく。実際に話を聞いて、あ、そうなんだっていう答え合わせができて、それで美味しかったら、飲んだ方も話しやすいじゃないですか。”美味しかったんだよ”っていうんじゃなくて、”BBメソッドって淹れ方があってさっ”て。

本当に感動してくれた時に、人に伝える時に、何かストーリーがあった方が大事だなって思って、あえてBBメソッドって命名したんです。

小野光

で、そのBBっていうのは?

近藤寛之

BBっていうのは、ファミリーレストランのビッグボーイっていう、ハンバーグのお店あります。 そこで思いついたっていうだけなんですよ(笑)

サラダバー目当てでビッグボーイに行ったんですよ。で、ハンバーグ食べた時に、低価格で食べれるレストランなんで、大したことないでしょつって思ってたのが、思ったより美味しかったんですよ。ハンバーグ美味って思った瞬間に、なんでハンバーグ美味いんだろうって思ったんですよ。

その時に、ハンバーグ美味いって、食べながら肉汁がじゅわってなった時に、美味しいなって思ったんですよね。それを、コーヒーに例えようとするです。肉汁って、油じゃないですか。で、この油分をもっと、液体に溶け込ませることによって、コーヒーって美味しくなるんじゃないかなって思ったんですよ。それで思いついて、油分をより溶け込ませようっていうやり方が、BBメソッドっていう。

小野光

え、なんかいいっすね。

小野光
近藤寛之

小野さんはないんですか?

小野光

特にないっすね。考えたことがない(笑)

僕がよくやってるのは、逆張りっていう戦略で、みんなが使ってくるであろうコンセプトとかの反対側を使うみたいな

近藤寛之

反対側を使う?

小野光

例えば、15から20gとか使う人が多いから、10グラムだったらなんか違うよなとかっていう感じで作っちゃうんですよね。

これを達成するためには、焙煎と抽出の組み合わせが重要になってきちゃうから、あまり気にしなくていいかなっていう感じになっちゃったんですよね。

近藤寛之

それは最近ですか?

小野光

そう、僕がちょうど日本大会で優勝した年は、そこまでわからなかったんですよね。

なぜかというと、焙煎やったことがないから、どういう風にしてほしいっていうのがうまく言えなかった。焙煎するようになってから、ここはこうしたい、みたいなぼやけてた景色が、ちょっとずつ綺麗になっていくというのがあったんですよね

近藤寛之

なるほど。

小野光

当時は、バリスタとかブリューワー側の人間だったので、淹れ方で美味しくしたい、みたいな思いが強かったんですよね。なんでかって言うと、焙煎しないからみたいなのがあって。

抽出のウエイトが、ちょっとずつ少なくなってきて、豆選びとかそういうのも重要だよねっていう考えにはなってきましたよね

だから、僕はあんまり何メソッドとかは考えないかな。なんかキャッチーなのがあるといいですよね。

近藤寛之

そうですね。

僕は逆に、サイフォンだからこそ、メソッドっていうのを新しく提案することが、より注目されるかなと

ドリップには46メソッドがあって、それからいろんなメソッドを作り始めて蔓延してる状況ではあったんですけど。サイフォンにはそういうのがないので、新たに僕が色々と提唱することで、新しい風を吹かしてるな。ま、自分で言うのもあれですけど(笑)

小野光

すごいっすね。

近藤寛之

だからこそ、いろんなとこに出てサイフォンって美味しいということを知って欲しいんです。

やっぱブリューワーズが1番っていう感覚だったんですよ。サイフォンは、ブリューワーズで勝ててないし、あまりいいイメージなかった。

逆に自分がサイフォンで淹れてみた時に、めっちゃうまって思って。サイフォンって美味いじゃんっていう、そのギャップですよね。そのギャップがあったからこそ、僕は他の方たちと若干淹れ方が違ってたりもするし、それこそ粕谷さんが提唱した、誰でも美味しくっていう淹れ方をベースに作ってるので。

粕谷さんを憧れて始めた人間が、また粕谷さんと同じような思想で、こうやって世に広めていう、ってことをできてるっていうのが、なんか俺、幸せだなというか。

小野光

52 めっちゃテツさんのこと好きじゃん。あ、俺も好きですけど(笑)

小野光×近藤寛之

優勝してからコーヒーの向き合い方の変化

近藤寛之

エアロプレスとブリューワーズとでは、優勝して違いますか?

小野光

エアロプレスは香港にいた時に優勝してるんですよ。その時に申し訳ないなと思ったのは、お店でエアロプレスは出さなかったんですよね。普通にドリップでとか提供してました。

近藤寛之

えーなんでまた!

小野光

香港にいた時、ドリップの方が美味しいなって思う時があって。それを優勝したことで簡単に出したくないな、みたいなちょっと天狗になっちゃった時があったんですよね。

でも一番の理由は、お客さんが指名制みたいになっちゃって。他のバリスタさんも働いてるのに、店に来て、”チャンピオンでしょ淹れてよ”みたいになるのが、僕の中ではスタッフへのリスペクトがないなと思って、それでやらなかったっていうのがあるんですよ。

近藤寛之

わかります。

小野光

近藤さんとは2017年が初めてですよね。

近藤寛之

その時は、粕谷さんのコーチを2人で受けてたので。

小野光

そうですね。実際話し始めたのは、香港から帰ってきた時くらいの、ここ3年くらいですもんね。近藤さんは話しづらそうなイメージがあって、最初は距離を置いてました(笑)

ただ話してくといい人なんだなって。だから今は、こうやって会う機会は多いですよね。

近藤寛之

イベントとかでも会ってますし。

小野光

また、世界大会とかね、応援みたいな。楽しみっすね。

近藤寛之

そうですね、僕自身も楽しみではあります。どう世界大会で披露するのかなってイメージしたら、競技時間15分なんですけど、33分ぐらいかかるんです(笑)

小野光

ここから切って貼っての作業が必要ですね。

サイフォニストの方と話す機会がすごく多くて、色々聞いてたら、それぞれの考えがあるんだなって。だから、近藤さんの話もBBメソッドとか、サイフォンって面白いんだろうなって。

近藤寛之

サイフォンはまだ未開拓ですからね。

小野光

ブリューワーに関しては、ある程度淹れ方が決まってるけど、サイフォンは自由な枠組みで作っていい、みたいな感じがすごいしたんですよね。

近藤寛之

そうですね。今まではコーヒーサイフォンにフォーカスしたのが。僕がサイフォンコーヒーにフォーカスをし始め、 若干変わってきますよね。コーヒーサイフォンっていうのは、いわゆる器具なんですけど、その器具をどうやって扱うかっていうことに、今まではフォーカスしてる印象があったんですよ。

でも僕は、出来上がったサイフォンコーヒーこそ、サイフォンの最大の魅力だと思ってこっちにフォーカスする事で、なんか皆さんの淹れ方が変わってくるとか、もっとこいつを使って美味しいコーヒーを作り出そうというか、サイフォンはやっぱ淹れている華麗さっていう1つの所作、美しさもやはり求めがちではあるんですけど、僕はそこを第一に考えてないので。

 

大事なんですけどね。でも、美味しいコーヒーを作る事が1番大事だなと思って、僕はそれは後回しにしてます。

近藤寛之
小野光

チャンピオンになってからは見せ方も大事だけど、より美味しいコーヒーを作る責任というのは強くなりますよね。

近藤寛之

チャンピオンというのはゴールではなく自分がコーヒーでやりたい事を実現させていく為の通過点という事は耳にしてましたが、実際になるとまさにそうだなと。

小野光

コーヒーって難しくまだまだ可能性がありますしね。

近藤寛之

ですね!日々精進です!

Editor & Text & Photos: 疋田 正志
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